第3話 棲息する魔物と忍び寄る影
レンタルした黒い装備。できるだけ節約する、ということで上半身だけを覆うスタイルになった。なので腰から下は分厚い布を重ねている……、普通に剣が突き刺さると思うんだけど……。
「上の防具も傷つけないようにね。防具に傷がつきそうになったら両手で防いで。
肩と繋がってさえいれば、怪我した腕は回復アイテムですぐに修復できるから」
「ぼ、防具の意味とは……?」
防具を守る防具が欲しい!
たぶんその防具もレンタルだから同じことだろうけど!
回復アイテムは買い切りなので、遠慮なく使う気のようだ。仮にレンタルだったとしても、使わず返すよりは使ってしまった方が得だと思って使い切るのだろうけど……残念ながら、ミサキの店に回復アイテムのレンタルシステムはないので、定価から半額のセール金額で購入である。
家にまだまだあるんだから買わなくてもよかったのでは? ……レノは「セールだから!」と言って、嬉々として買っていた。家にあるのも全てセール品である。
もしかして彼女は期間限定に弱いタイプなのかな? 節約と言っていながら、たまに大量に購入するのはセール品である……。節約した分をそこで使っていたら意味ない気がするけど……。
すぐに使わないものは、買っておくべきじゃない。
あとで必要になるかもしれないけど……、そんな機会、そうそうあるわけじゃないのだから。
……それに、半額になっているから安いと感じるけど、そもそも定価がめちゃくちゃ高いから半額でも高いんだよ……。そのへん、麻痺しているのではないか?
そう指摘すると、
「私には私のやり方があるの!」と言われてしまい、それ以上は言えなくなる。
……お金の管理を任せてしまった以上、口を出せない。
彼女以上に上手くできる自信があるわけじゃないし……――。
だからせめて、レンタルした防具の使い方くらいは、おれのやり方でやらせてほしい。
「だってあんた、報酬前提で防具を使い潰すから、見ててハラハラするのよ……。
宝も報酬も貰えなかったどうするつもり? まーた、借金が増えるだけじゃない……」
「返す日にちが延びただけだ」
「延滞料金もかかるっつってんのよ!!」
借りた以上に利子がついている……、損をしているのは確かだけど……貸してくれた分のお礼としてそれくらいは払うべきだと思うけどなあ……。
「損とか得とか、そういうことじゃないと思うんだよ」
借金とは、人間関係である。
褒められた仲ではないが、繋げておいて損はないはず……。
また困った時に頼ることができるのだから。
「借金を返し切って、私とあなたの関係性をフラットにしてから言ってくれる? ……あなたに貸している分、私は損をしているの。目を瞑れる損じゃないんだけど?」
「おれと関係が続くことを得と考えるのは無理か?」
「あなたが私になにをしてくれるのか言ってみてくれる?」
なんだろ……――なんでもできると言えばそうだけど……。
曖昧だった。
――じゃあ、どうしてレノはさ……。
おれをこうして助けてくれるんだ?
「……別におれと同行しなくても、金を稼ぐおれを宿で待っていればいいのに……。わざわざお金の管理をして、レンタル装備の傷の確認もしたり……。お金を借りた上にここまで面倒を見られたら、おれは借金以上に返すものが多くなるだろ……」
「なら、返しなさいよ――全部」
どうしろと。
苦笑するおれをちらりと見ながら。
……レノが、つん、と言い放つ。
「あなたを認めて同行しているの。……得意分野じゃないんだから。
ダンジョン攻略なんて、命がいくつあってもいきたくないっての」
既にマッピングされている浅い階層のダンジョンは危険も少ない。出てくる魔物の詳細も分かるし、弱点も判明している。
こっちからつついたりしなければ反撃をしてこない魔物ばかりだ。
攻略を始めたばかりの頃は情報欲しさにわざとつついて魔物を怒らせたりもしたし……、当たり前だが、おれたちだって生活を脅かされたら両手に武器を持って戦うだろう……、仲間と協力して、命懸けで敵を殲滅する。
それと同じで、魔物たちも普通に生活しているのだ。こっちからなにもしなければすれ違う時に頭を下げるくらいで見逃してくれる。
壁を這うちょっと大きめな虫に、レノがおれの腕に顔をつけて、「あーっ、あーっ!」と恐怖を誤魔化している……。ダンジョン内部には多くの光源があるので充分に明るい。
だからそんな、お化け屋敷に入ったみたいな反応をしなくても……。
「相変わらず虫型の魔物は苦手なのか?」
「……ちがう、嫌悪感があるだけ」
「苦手となにが違うんだ」
浅い階層に棲息する魔物は、ほとんどが虫型だ。だから女の攻略者がここで一気に脱落する。……確かに嫌悪感はあるが、近づいても攻撃してこない温厚な魔物ばかりだ。
敵意がなければ触らせてもくれるし……、優しい魔物だと餌を分けてくれる。その餌の見た目は、かなりグロテスクなので躊躇するが、幸い、浅い階層なのでまだ餌が重要な場面ではない。
せっかく譲ってくれたけど、大丈夫、と手を振って餌を返すのが恒例になっていた。
さささっ、とすれ違うあれは……、刺激を与えると丸くなって転がって逃げる魔物だ。
「……可愛いのになあ」
「手の平サイズでも無理ッ!」
さらにぎゅっと、おれの腕にしがみつくレノにも同じ感想を抱いていると――ゾワッ、と。
――背骨に走る電流に、意識が後ろ、斜め上に持っていかれる。
見て反応していたら遅い。反射的にレノを横へ突き飛ばし、二手に分かれる……――おれたちがいた場所に飛んできたのは――銃弾、だ。
銃声はない……消音機能……ではない。
ぱちん、という音が僅かに聞こえ……――スリングショット!?
だから、殺意が感じ取りづらいわけだ……ッ!
「っ、破壊屋か……ッ!」
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