第53話 レナですが、いつの間にかわたしたち悪の大幹部です

 

「聞くがいい!! ジール王国の国民たちよ!!」


 この日の為に新調した漆黒のマント (金のラメ入り)をはためかせ、王宮のバルコニーに立った俺は眼下に集まった人間どもを睥睨する。


「ていっ」


 ズガーン!


「うりゃりゃっ」


 バサバサッ!


 四天王であるノナとレナが、演出用の電撃と紙吹雪を担当してくれる。

 いまの俺様がでかい魔術を使うと魔力の回復に時間が掛かるからな!

 勇者フェリシアとザンガの野郎の出方が分からない今、安全第一だぜ!


「「わああああああっ!」」


 七色に輝く稲妻が王宮の尖塔に直撃し、大量にばら撒かれた紙吹雪が王宮前広場を覆い尽くす。

 くくっ、この1か月でレナノナはさらにレベルアップしたからな!

 俺の力を貸さずとも、これほどの演出力を発揮できるのだ!


「勇者フェリシアの蜂起をブッ飛ばしてから1か月……ヤツは王国がため込んだ金塊を国外に流出させ、さらなる投資をジール王国に呼び込み発展させる計画だったようだが!!」


 ぶわん!


 俺は巨大な魔術映像を空中に投影する。

 勇者フェリシアの所業により一時的に大きく落ち込んだジール王国の経済指標は、外国資本の流入により半年後にはV字回復を遂げる……ヤツの目論見はこうだったはずだ。


 ばしゅん!


 急激に落ち込んだ経済指標のグラフは、崖を上るようにグラフの上限を突破していく。


「いやいや、無いでしょ……」


「ほっほっほ、経済担当大臣がヤケクソで出した中期経済計画みたいですな!」

「……総務大臣、黒歴史を掘り返さないでくれるかね?」


 うしろで大臣共が負け惜しみを言っている。


「極悪な俺様は、自前の金でその目論見をぶっ壊してやった。

 かくして俺様のマオーメタルはジール王国の債権の60%、国有企業の株70%を手に入れ、経済指標の回復度合いを減らしてやったのだ!!」


 V時回復のグラフは書き換えられ、なだらかな曲線に置き換わる。


「くくっ、一攫千金をもくろんでいた連中は残念だったな!!」


「「お、おう?」」


 王国広場の左右に設けられた貴賓席に座っているジジイどもを見る。

 聞けば王国最大企業の経営者に銀行の頭取など、ジール王国経済のかじ取りをしていた連中らしい。

 一攫千金のチャンスを潰され、憮然とした表情を浮かべているようだ。

 まさに外道!!


 俺の視線に気づいたのか、立ち上がり一礼するジジイ達。


 ほう!

 伊達に歳は食っていない……大した胆力だぜ!



 ***  ***


「いやはや……あれだけの金塊を持ち逃げされた時には、これで我が国の経済も終わりかと思いましたが」


 椅子に座りなおした頭取は、豊かな口ひげをさすりながら苦笑する。


「まったくですな! まさかガイ殿の会社があれほど大規模な市場介入を行えるとは」


 ジール王国商工会の会長も務める経営者は、大きな腹を揺らしながら愉快そうに笑う。


「ご存じですか? ガイ殿は金を生み出せる神獣と契約されているとか……」

「なんと!? それではまるで夢の……」

「まさに錬金術と言うわけですか」


 なんというお方だ……彼らのガイを見上げる視線は既に崇拝に近い。


「というわけで、グラノール帝国のハイエナ連中に乗っ取られかけていた我が国の経済は持ち直し、堅実で力強い成長曲線に乗ったというわけですな」


『はははっ! 何とかという帝国はなぜか没落したようだぜ?

 ジール王国が世界のリーディングカントリーだ!』

『くくっ……責任重大だなぁ!!』


 そう、ガイ殿の言う通り莫大な軍事力と資金力で世界を不当に牛耳っていたグラノール帝国の力が落ちた今、まっとうな市場経済を世界中に浸透させるチャンスである。


「我ら一同、ガイ殿の覇道に命を賭けて協力しましょうぞ!」


「「ああっ!!」」


 立ち上がり、円陣を汲む王国の経済VIPたち。

 強固な魔王ガイ支援組織が結成されようとしていた。



 ***  ***


「くくっ、ジジイ共が結束して捲土重来を計るか……いいねぇ! それでこそコチラもやりがいがあるってもんだ!!」


「……またガイが勘違いしてる」


「まぁまぁ、いつもの事じゃん?

 それよりノナちゃん、ロールプレイだよ!!」


 俺の背後で何やらこそこそと話していたレナノナだが、二人で大きくうなずくと、てててっと俺様の左右に展開する。

 くくっ、コイツらには大事な役目を与えているからな、ようやく決心がついたようだぜ。


 これだけの大観衆の前で演説する……しかも悪の幹部衣装でだ!

 思春期の女の子には、さぞかし恥ずかしい事だろう。

 四天王として大事にはしてやるが、こういう羞恥虐待はやめられないのだ!!


「だから衣装だけは考えてって言ってるのに……あとでハリセンね」


 ノナの抗議の視線が心地よい。


「んんっ、こほん!!

 よく聞け、国民どもっ!

 いよいよ今日の本題に入るっ!

 お前達が食らうのはけーざい虐待だけじゃないぞっ?」


 ばばっ!


 漆黒のボンテージ衣装を着たレナがノリノリでポーズを取る。

 それに合わせ、空中の魔術映像を切り替えてやる。


「な、なん……だと? もっとすごいことがあるのか?」

「きゃ~っ♡ レナちゃんよ! かわいいっ!」

「あの子が噂の四天王か……凄い力を持っているそうだが、なんて愛らしいんだ」


 どどーん!


 巨大な稲光がレナの姿を浮かび上がらせる。

 恐怖の四天王としては標準的な演出だが、どうしてもかわいさが勝ってしまうな!!

 このギャップもまた一興よ!


「かつもくして見よ~っ!!

 魔王ガイのジール王国虐待計画そのいちっ!!」


「そ、そのい~ち!」


「おおっ、今度はノナちゃんか!」

「あの恥じらいがたまんないよな~あと以外に豊満な……」


「あたしらの守護女神を変な目で見るんじゃないよ!」


 ドガッ!!


 くくっ、いよいよ発表される虐待計画に、恐慌状態に陥った人間どもが仲間割れを繰り広げてやがる。


 しゅわん!


 天候操作魔術で辺りを暗くした俺は、相棒たちの初仕事 (魔王軍四天王として)を見つめるのだった。

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