第52話 レナノナ孤児院、開設!(後編)
「ガキども!! こちらに注目しやがれ!!」
「「ひゃ、ひゃいっ!?」」
「てめぇらに選びきれない選択肢を与えてやるぜぇ!!」
ガイおにーさんのドヤ顔が冴えます。
「はいは~い、こっちにならんで!」
「たくさんあるからあわてなくていいよ~」
「「えっえっ? ふくがもらえるの?」」
お風呂で綺麗になった子供たちが連れてこられたのは、孤児院1階にある大広間。
もうお分かりですね?
お風呂ピカピカ虐待の後は服虐待ですっ!!
わたしたちの後ろに山積みされているのは、数百着のキレイな子供服……おにーさんいわく”矯正装備”ですっ!
「ガキどもは成長がはえぇからな! 3か月ごとに強制的に服を交換してやる!!
お気に入りの服を無理やり新しいものに……その度にお前たちは魔王の僕である事を実感するんだぜぇ!!」
「「ふ、ふええ?」」
……とのことです。
「す、好きに選んでいいんでしゅか?」
ててててっと走り寄ってきたエルフの女の子が不安そうに私の脚にしがみつきます。
「最初は一人3つまでだよ?
そうだな~銀髪が綺麗なミルちゃんにはこのワンピースがいいかな!」
「わぷっ!?」
エルフのミルちゃんは実験体としてとある犯罪組織に捕らわれていました。
幸い、あまりひどい事はされていなかったようなのですが、心の傷は時間をかけて癒してあげる必要があります。
わたしは矯正装備の中から若草色のワンピースを取り出すと、ミルちゃんに着せます。
「うおっ!? 超かわいい!」
「えっ……えへへへ」
ふにゃりとはにかむミルちゃんを抱きしめます。
ああやべぇ、これ……クセになりそう!!
「ノナおねーちゃん、ぼくこれがいいっ」
ぴょんっ!
「わっ!? こら、順番だってば!!」
「おねーちゃんぷにぷに~!」
「うわわわっ!?」
いろんなところがぷにぷになノナちゃんは子供たちに抱きつかれています。
……いろんなところがぷにぷに……。
「レナおねーちゃんなだらか……」
ぺしぺし
「がが~んっ!!」
ミルちゃんの純粋無垢な指摘に、大ダメージを受けるわたしなのでした。
「おうガキども!!
地獄の饗宴の準備が出来たぜ!!」
その時、ガイおにーさんの声が大広間に響きます。
この子たちに服を着せた後は……そう、ごはん虐待の時間ですっ!!
*** ***
「「こ、これぜんぶ食べていーの!?」」
「ふはははははっ! それどころか、飯を食べ尽くさないと出られない部屋だぜ!!」
「無駄なギミック!?」
すっかり綺麗になり、可愛い服を着た子供たちが次に訪れたのは、1階の大食堂。
『食事の時間すら、気の休まる暇はねぇ!』
『悪の軍団にふさわしく、弱肉強食だぁ!』
『出遅れた奴に食わせる飯はねえぜ? せいぜい餓鬼のように醜く奪い合う事だ!!』
……な~んてガイは言っていたけど、全員が3回おかわりしても余りある量の食事が用意されているのは、いつも通りの事。
ノーラさんたちと手分けして作ったもちもちの白パンにドードー鳥のぱりぱり焼き、村の農場で採れた野菜で作った温野菜サラダに肉汁したたるエビルバッファローの串焼き。
もちろんケーキやクッキーなどのスイーツも完備!
今日は歓迎会も兼ねているのでちょっぴり豪華だけど、あたしたち四天王が腕を振るった料理が毎日の食卓に上るのだっ!!
「「う、うわぁ~っ♪♪」」
子供たちは大皿に乗った光輝く料理たちに釘づけだ。
「……ていうか、なんでこんなに料理がキラキラしてるかと思ったらお皿が光ってるじゃない」
「入り口のドアも消えてるし、ホントに魔法的なギミックみたいだね」
食べ尽くさないと出られない部屋ってのは本当みたいだ。
案の定ガイがニヤニヤしている。
ふん、舐められたものね。
あたしたちの食べっぷり、見せつけてあげるわ!
「さあみんな!!
気合入れて食べるわよ~!!」
「「わああああああ~っ!!」」
歓声を上げて料理に突撃していく子供たち。
「ふふっ、ミルちゃんはこっちね」
子供たちの中でも年少さんを引き連れ、食堂の端にしつらえられた幼児用テーブルに向かうレナ姉。
あたしは小さな子でも食べやすい料理を取り皿によそうと、レナ姉の後を追うことにした。
*** ***
「ぱくぱく! おいしい!
おいしいよおねえちゃんっ!」
ミルちゃんたち年少組が、小さな口いっぱいに料理を詰め込んでいる。
「ほらほら、よく噛んで。 お茶もあるわよ」
「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはぁっ!
ありがとうおねえちゃん!」
「ふふっ、どういたしまして」
微笑ましいミルちゃんの様子に、こちらまで笑顔になる。
「……いや~、悔しいけどこれは楽しいわ」
「だよね~」
なぜあんなに嬉々としてガイがあたしたちにごはん虐待を仕掛けて来たのか。
今さらながらにその理由を痛感する。
自分が作ったごはんに子供たちが美味しそうにかぶりついている。
それを見るだけでこんなに幸せな気分になるなんて。
これはガイがハマるのも分かる。
「……だけどさ」
「お? どしたのノナちゃん?」
ミルちゃんたちを自分に置き換えると、一つだけ気になることがあった。
「ガイから見たあたし達って、たぶんミルちゃんみたいに見えてるよね?
相棒、四天王って言ってくれるけど……女の子としてはどうなのかな?」
ため息一つ、ほーまんと自負している自分の胸を見下ろす。
とはいってもまだ13歳だから、当然ミルラさんには及ばないし……大魔王ガイの隣にはクールなミルラさんが似合う気もするのだ。
「この姉妹格差を前にそんなこと言う!?」
相変わらずの絶壁を押さえながら憤慨するレナ姉。
「でもまあ、大丈夫だよノナちゃん!!
あーみえてガイおにーさんは女性関係にはうぶなねんねだよ!」
「わたしたちが強くなって女子力を鍛えて行けば、絶対振り向いてくれるよ。
……ミルラおねーさんはオモシロ枠だしね」
「ぷっ! そーだといいけど」
ふぁーすときすもまだな癖に (あたしもだけど!)妙に自信満々なレナ姉に吹き出してしまう。
『すが~ん!?』
どこからか空耳が聞こえてくるのもいつもの事だ。
「それにしても、ノナちゃんも色気づいてきましたなぁ!
かわいい妹の成長を感じられて、わたしは幸せですよ」
「むっ!」
こんな時だけ姉面するレナ姉を軽くこづく。
これでもあたしは白馬の王子様に憧れる夢見る女の子なのだ。
……最近は悪の大幹部一直線だけど。
とてとて
と、そんな姉妹愛(?)には我関さずと、ケーキを小皿に抱えたミルちゃんが隣のテーブルに駆け出す。
そこにいたのは涼し気な黒髪を持つ男の子。
「ジョルくん……ミルとつきあってくれる?」
「!? う、うん! いいぜ」
「よしっ……じゃあ、ケーキたべあいっこしよ?」
ぱくっ
ぱくっ
「「にへ~っ」」
「「既に負けてるっ!?」」
やけにおませな子供たちにノックアウトされるあたしたちなのだった。
たっぷりとごはんを食べた後は子供たちをふかふかのベッドに寝かせる。
ほろ苦い敗北感(?)を抱えながらあたしたちの孤児院はスタートしたのだった。
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