第40話 魔王軍団、悪のレジスタンスを配下に加える

 

「な、何だね君たちは!?」

「うわっ!? 剣を構えているぞ!」


 ガッッ!


「いててっ!?」


 部屋の中にいた、冒険者と思わしき10人ほどの男女。

 みな揃って驚きの表情を浮かべている。

 驚きの余り椅子から立ち上がろうとして膝をぶつけている奴もいる。


 連中の驚きようも理解できる。

 急に部屋の壁が切り飛ばされ、不審な一行が現れた。

 しかも、そのうちの一人は剣を構えているのだ。


「フェリシア傭兵団の手の者か!?」

「待ってノラン! 小さな女の子もいるわ、避難民じゃ?」


「一般市民がこんなヤバそうな剣を持ってるわけないだろ!?」

「あの真っ黒な鎧は明らかに業物だぞ!」

「おい見ろ! 少女たちは首輪を付けられているぞ! 奴隷商人ならデニスの仲間だ!」


「だがあの子は神官服を着て黒曜石のロッドを持っているぞ?」

「馬鹿野郎! 相手は剣を抜いてるんだから早く構えろ!!」


 どたどた、がしゃ~ん!


 混乱する冒険者どもをニヤニヤと眺める。

 驚かせた甲斐があったぜ!


 俺のライフワークは虐待だが、いたずらも大好きなのだ。

 ミルラの奴からは「いつまでも子供みたいに!」と言われるが、リアクションが面白いヤツがいるのだから仕方ないじゃねぇか。


(ちょ、ちょっとガイ! アンタが邪悪な見た目してるから勘違いされてるじゃないの!)

(このままじゃ攻撃されちゃうわよ!!)


(まあ待て、焦るな)


 俺の背中に隠れたノナがこそこそと耳打ちしてくるが、驚かせた後の余韻を楽しむのだ。


(あ、もしかして……)


 相変わらずレナは察しが良い。

 そう……俺たちには切り札がいる。


 まあ、そろそろいいか。


「……ニーナ!」


 俺は台車を持ったまま部屋の外で待機していたニーナを呼ぶ。


「なんでしょう、ガイさん?」


 俺の声に答えて、ニーナが部屋の中に入ってくる。


「……って、ニーナさん!?」


「あ、ノランさんお久しぶりです」


「って、知り合いかいっ!」


「やっぱし」


 思っていた通りだ。

 この事を予想してなかったノナのツッコミが、室内に響き渡ったのだった。



 ***  ***


「な、なるほど……レンド村に救援を呼びに行ってたんですね」


「はい、フェリシア様の言われる村の惨状と……両親の手紙の内容があまりにも違っていたので」


 数分後、俺たち魔王軍団一行と冒険者共は席につき、話し合いを始めていた。


 ちなみに、俺が切り抜いた壁の穴は完璧に修繕してやった。

 どうやらこの建物は借家みたいだからなぁ!


 貸主は不当に搾取した敷金を全額没収できると思っていただろうが、そうは俺様が許さねぇ!

 経年劣化で付いたと思われる壁の傷もついでに直しておいたぜ、ざまぁみろだ!!


「……それで、そちらが」


「はい、レンド村の救世主、ガイさんです」


 恐れを含んだ眼差しで、こちらにちらりと視線を寄こす冒険者。

 確か名前をノランと言ったか。

 少し観察しただけだが、身体運びには隙がなく、この世界の住人の中ではそこそこのレベルだろう。


「確かに……これは」


 呆然とした表情でピカピカになった壁を眺めるノラン。


 お? もしかしてコイツいいとこのお坊ちゃんでこの建物の貸主とかじゃねぇか?

 敷金を全額没収できる機会が訪れたのに潰されてしまった……くくっ、絶望に打ちひしがれてやがるな。


「またなんか勘違いしてるみたいだけど……ま、まあちょ~っとウザい所もありますけどいいヤツですよ」


「ガイおにーさんはわたしたちに幸せな【虐待】をしてくれるのですっ!」


 冒険着にメイドカチューシャだけをかぶるという謎の格好をしたレナノナが、冒険者どもに紅茶とケーキを振舞う。


「あ、ありがとう」

「……って、空中からケーキがいきなり出現した!?」


 くくっ、今日のメニューは希少なダークシープの乳から作った練乳たっぷりのいちごショートだぜ!

 数日前から魔界最高のパティシエに注文していたものを今取り寄せたのだ。


「まさか伝説上の創造……いやこれは転移魔法か?」

「こ、この男、いったい!?」


 魔術使いらしき壮年の男が目を剥いて驚いているが、それはそうだろう。

 転移系の魔術は、Gランク世界では到底実現できないSSクラス魔術なのだから。


 くくっ、それだけじゃねぇぜ?


「いまから”正義の”勇者サマをぶちのめしに行くんだろう?

 俺様のサブウェポンを貸してやる!!」


 ゴト、ゴトン


 腰に下げたポシェットから、いくつかの武器を取り出しテーブルの上に置く。

 コイツは俺様の格好良さを邪魔しないシンプルなデザインながら、大きめの木箱1つ分くらいの荷物が入る優れもの。


 手下候補であるコイツらに貸す武器は、レナノナの練習用レベルのヤツでいいだろう。


「これは銀製のレイピア? しかし刀身に描かれているこのおどろおどろしい紋様は……」


「おう! ソイツは護身用の低殺傷レイピアだが、相手の五感を奪う毒が塗られていて、デバフ効果も悪くねぇ!

 攻撃力は僅か200!」


「「にっ、にひゃくぅ!?」」


 典礼用だからな、見た目だけが立派なんだぜ?

 あまりの攻撃力の低さに驚いたのか、椅子から転げ落ちるノラン。


「な、ならこちらのマジックロッドは……」


 壮年の魔術使いが震える指先で紫色の魔術用ロッドを指さす。

 くくっ……良いものに目を付けたな。

 素材は一般的な魔界魔導石だが、ロッドの先端に付いた発動体が竜のドクロを模しており、厨二要素もばっちりだ!


「ま、背伸びしたいガキ用のおもちゃだがな。

 魔力ブースト効果は僅か50%だぞ?」


「ご、ごじゅっぱーせんと……」


 ばたん!


 あまりの低威力に驚いたのか、魔術使いは泡を吹いて倒れてしまった。

 ふっ、装備に頼るようじゃまだまだひよっこだぜ?


「こ、これほどの業物をどこで……」

「それに、地上では採れないはずの魔石が使われておる……貴方はまさか」


 この中で最年長だろう、緑のローブを着たじいさんがぷるぷると震えながら俺の方を見上げてくる。


 そうだな、そろそろ名乗った方がいいだろう!


「おう! 聞いて驚け、俺様は……」


「あ~! ちょっと見た目はこんなですが、ガイは正義の……むぎゅっ!?」


 勢い込んで名乗りを上げようとした俺の前に慌てて割り込んで来るノナ。

 だが、幾ら相棒のノナとはいえ、気持ちのいい名乗りのシーンは譲れねぇ!!


「……あ~」


 何故か悟りの表情を浮かべているレナ。

 俺は優しくノナの口をふさぐと、背中に闇の炎を纏わせ宣言する!


「俺様はガイ・バリアート!!

 お前たち人間を恐怖と虐待で支配する悪の大魔王だぁ!!」


 ズガーーーーン!!



 ***  ***


「もがもが!?」


 室内なのになぜか轟く雷の音。


 ああ、やっちゃった。

 ニーナ姉がいるから丸く収まりそうだったのに、このバカは正直に自己紹介しちゃったのだ。


「あーもう! 正直に言うバカがどこに居んのよ!!」


 べしっ!


 あたしはガイの腕を振りほどくと、ハリセンで思いっきりガイの頭をしばく。


「あ? 魔王が魔王って名乗るのは当たり前だろ?

 でも確かに、大魔王って名乗るのはまだ早かったか?」


「そこじゃな~いっ!」


 べしっ!

 追撃を食らわせながら、ちらりと横目で冒険者さんの方を見る。


「「…………」」


 案の定、一言もしゃべれずに固まっているけど……。


「な、なるほどっ!」


「……へ?」


 なぜか目を輝かせたノランさんが大きく手を打つ。


「マフィアやアウトロー冒険者が闊歩する今の王都……わざと悪そうな格好をして侵入を容易にする作戦ですね!!」

「あえてフェリシア嬢にスカウトされれば労せず敵の中枢に潜り込めると……ふむふむ、素晴らしい作戦です!!」


「はっはっは! よく分からんが俺様の魔王っぷりを分かってくれたようだな!」


「よっ、魔王様!!」


「「えっ……ええぇ」」


 豪快に勘違いした挙句、感激の面持ちでガイのもとに集まる冒険者たちに、この国大丈夫だろうかと思わず不安になるあたしとレナ姉なのだった。

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