第27話 少女たちのバースデー(後編)
「むむむむっ、いったい何が起きてんのよ~っ」
なにやら外からにぎやかな声が聞こえてくる。
「むふふ、もうすぐ分かるかもしんないよ~」
両手を縛られ、地下の牢屋にぶち込まれている。
あまりにあまりな状況なのに、ニヤニヤと笑みを浮かべているレナ姉。
まあ、いまさらガイがあたしたちに危害を加えてることは無い気もするけど、いままでが壮大なふりだったと言う可能性もあるのだ。
それに、ガイって結構子供っぽくていたずら好きのところがある。
こないだなんて、急に
「怪談虐待をするぞ!」
なんて言い出して、嫌がるあたしに魔界(?)の怖い話をたっぷり聞かせてきたのだ。
その夜、夜中トイレに起きたあたしに……。
むき~っ!
廊下でなんかすげーお化けの格好をして脅かしてきたのだ!
そのせいで……。
「いや~、わたしだけお漏らしを見られたのは不公平だと思ってたんだよね、むふ~」
「あん時のノナちゃんの顔ときたら……」
「……ノナアタック!!」
べしっ!
「ふぎゃっ!?」
あたしの醜態を掘り返そうとするレナ姉を体当りで黙らせる。
そう、味を占めたガイが更なる辱めをあたしに与えてくるかもしれないのだ!
む~、ちょっぴり粗相しちゃったあたしを見て、珍しくあわてていたガイだったけど、とっても恥ずかしかったし、簡単には許してあげないんだから!
「すまんすまん、そこまで脅かすつもりは無かったんだ」
その舌の根が乾かないうちにこの仕打ちである。
両手が自由になったら絶対ハリセンでシバいてやるわ。
そう心に決めていると、突然状況が動き始める。
かちん!
ゴウンゴウンゴウンゴウン……
スイッチの音が聞こえたかと思うと、重苦しい音が頭上から響く。
「ふ、ふおっ!?」
レナ姉の声に頭上を見上げると、青い空が見えた。
「て、天井が!?」
石造りの天井が開いた?
そう認識するまもなく。
がこん!
「えっ!?」
今度は足元から音がしたと思うと、あたし達が座っているソファーごと床が沈み込む。
グググッ……ドオオオンッ!
「「えっ、えええええええええええっ!?」」
次の瞬間、ものすごい衝撃があたしたちを襲い、あたしとレナ姉は空高く放り投げられていた。
*** ***
永遠にも思える浮遊感。
雲ひとつ無い、吸い込まれそうな青空。
遠くには青々とした海が見え、遥か向こうにうっすらと王都の町並みが見える。
眼下にはパッチワークのように巨大な農場を備えたレンド村が。
(ああ、綺麗だなぁ……)
わたし達の世界は、なんて美しいんだろう。
物心付いたばかりのとき、お腹をすかせて街の片隅ですすり泣くあたしたちに誰も手を差し伸べてくれなかった。
残酷な現実に、この世界を恨んだこともあったけれど……。
(あたし、いま幸せかも!)
「むふ~、こりゃ落ちてますな~」
あたし渾身の現実逃避は、レナ姉の冷静な声であっさりと終わりを告げた。
「きゃあああああああああっ!?」
ものすごい勢いで空中に放り投げられただけで、魔法で浮いているわけではない。
放物線の頂点を越えると、後は落ちていくだけなわけで。
「のおおおおおおおおおおおっ!?」
「すかい、だいび~んぐっ♪」
能天気なレナ姉の言葉と共に、ちっちゃく見えていたお城がどんどん大きくなってくる。
ぶつかるっ!
思わず目を閉じたとき。
ばさっ!
たくましい腕に、あたしの身体は優しく受け止められた。
ふわっ
「……えっ?」
恐る恐る開いた目に映ったのは。
「レナ、ノナ」
いつに無く優しい笑みを浮かべたガイだった。
「今日が、お前たちの13回目の誕生日だ。
誕生日おめでとうだぜ!!」
「~~~~~っっ!?」
え、なにこれ?
まさか、お誕生日を祝ってくれてるの!?
いやまだ落ちてるし!
ていうかこれってお姫様抱っこ!?!?
一気にいろんな情報が押し寄せてきて、頭の整理が追いつかない。
ブワン!
わたわたと混乱していると、あたりが闇夜のように暗くなる。
「こ、今度はなに?」
ひゅるるるるる
お城の各所から、数十条の光の矢が空に上ってゆく。
どん!
どどどんっ!
「うわあっ♪」
「……すごい」
お腹に響く音を轟かせながら、空中に大きな花が咲く。
赤、黄色、緑……色とりどりの光の花が、咲いては消え、開いては煌く。
今まで見たことの無い幻想的な光景。
とっ
いつの間にか落下スピードもゆっくりになっていた。
あたしとレナ姉はガイにお姫様抱っこをされたまま、お城の中庭に設置されたステージに降り立つ。
「レナちゃん、ノナちゃん! お誕生日おめでとう!」
「おめでとう! ガイ様を連れてきてくれてありがとうな!」
「ふおお!?」
「うわっ!?」
レンド村の人たちが、次々におめでとうの言葉をくれる。
「レナ、ノナ。
お誕生日おめでとう。
貴方たちはレンド村の……私達の救世主なのですよ」
「「ノーラさん……」」
「それでだな」
ようやくお姫様抱っこから解放されたあたしたちの頭を乱暴に撫でる手。
「俺様の大事でかわいい下僕ってわけだ!」
「ふ、ふわわわわっ!?」
「ううう~~~~っ!?」
ガイの手が暖かくて。
ノーラさんや村の人たちの言葉がうれしくて。
何よりこんなサプライズを用意してくれたガイになんかものすごく腹が立って。
「もうううううううう~~~!
脅かさないでよっ!
でも、でもっ
ありがとうっ!!」
「ガイおに~さん! すっごく素敵な誕生日プレゼント、ありがとうっ!!」
ぎゅっ!!
初めて知った自分の誕生日。
いろいろな感情で頭の中がぐちゃぐちゃになったあたしは、レナ姉と一緒にガイに抱きついて、わんわんと泣いたのだった。
*** ***
くくっ、成功だ!!
俺は歓喜に打ち震えていた。
俺に抱きついて泣くレナノナの頭を優しく撫でてやる。
探査魔術でコイツらの誕生日が今日であることが判明した。
ふたりは今日で13歳……つまり
素直になれないお年頃、他人から褒められまくると超恥ずかしくなり斜めに構えたくなってしまうのだ!
(俺様もそうだったしな!!)
その思春期特有の精神防壁を、過剰な祝福攻撃で粉々にしてやるって寸法よ!!
コイツラはしばらくベッドの中で悶えるのだ!
「あんなに取り乱しちゃって……恥ずかしいっ!」
と!!
まさに外道!!
魔界中学校に通っていたときミルラにコイツを仕掛けたところ、校舎を吹き飛ばした挙句1ヶ月くらい再起不能になっていたからな!!
いくらレナノナがユニークだと言っても耐えられる道理がないぜ!!
ふぅ、満足した。
次はいつものメシ虐待を味あわせてやる。
俺は闇夜化魔術を停止させ、レナノナの手を引いてパーティ会場に向かおうとしたのだが。
ズガーーーーーン!!
巨大な落雷が目の前に落ちる。
土煙の中から現れたのは。
「はあっ、はあっ!
何とか間に合ったぞ…………どうだこの可愛い装備は!!」
これでもかとハートマークがあしらわれた白とピンクのワンピース。
流石に俺もやりすぎたと少し反省した、禁断のふりふり衣装を身につけたミルラだった。
「はえ~……」
「うはぁ……」
目を点にして固まっているレナとノナ。
「なんというか。
お前っていつもタイミング悪いのな」
「がーーーーん!?」
「さ、メシいこうぜメシ」
石化したミルラを放置して、改めてパーティ会場に向かう俺たちなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます