溶けるように罪を償う
ひくらみ
償い
白い病室には、簡易的なものしか置かれていない。窓から入る風はお世辞にも心地よいとは言えるものではなかった。生暖かい、梅雨明けの風。ベッドに横たわる君の寝顔を眺めながら右手に持つガソリンを強く握りしめる。
今まで君と過ごした時間、君との大切な思い出を無慈悲に潰していく大人たち。僕は、そんなことをする大人になんて、なりたくない。だから
「ここで、君と終わりたい。」
返事が返ってくることはない。もうわかっていたことだ。
周りの大人たちにむごい仕打ちをされてきた僕ら。学校の先生だって、相談したところでなにも解決してくれない。だから、自分で原因を潰していった。
生臭い匂いが充満する家。
壁には大量の返り血。
でも、間に合わなかった。君を、助けれなかった。
既に病院の周りには警察が集まっている。終わりの時は近いようだ。ガソリンを部屋中にぶちまける。月明かりに照らされる君の白い肌には紫色のアザがたえない。僕の左手も、もう使い物にはならない。
どうせ終わるなら、ドロドロに溶けて、灰になって、君とひとつになって終わりたい。
それが僕の、君を救えなかったという罪を償うただ一つの方法。
外から絶え間なく聞こえる大人たちの怒号を無視して、ポケットからマッチを取り出す。足と右手を上手く使いながら火をつける。ここは廃病院だから僕達以外誰も中には居ない。前もって病院には誰も入れないように何重にも板を打ち付けている。本当に、僕達だけの空間。
「じゃあね、おやすみ。」
右手を離し、マッチを落とした。
溶けるように罪を償う ひくらみ @hikurami
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