第48話 名前の由来

 美化はリュックからZERO WORLDのソフトを出して、ズラリと並べてみせた。


「おーっ! 凄いっ! 竜神りゅうじんとう物語ものがたり……しかもこの色はっ……当時のZERO通信の読者プレゼントで数名にしか当たらないって代物じゃないかっ!」


「え〜? やっぱ是露先生すごいですね! そこまで分かってくれるなんてっ! 逆に感激ですよっ!」


「もちろんよ! どおりで残酷のネル・フィードなんて持ってるわけだ!(笑)」


「残ネルも私の自慢のコレクションのひとつですからねっ!」


「他は?  他にはなにがあるの!?」


 是露は美化の持ってきたソフトに興味津々の様子だった。


「おおっ! これはっ、幻のシューティングゲーム! 髑髏どくろ! ……うわっ! しかも専用コントローラーまでっ! そしてこれは……えぇっ? ZERO WORLD最後のソフト!! excellent girl'sエクセレントガールズ……こんなものまで……お宝ばかりだ……」


「是露先生これやったことある?」


 美化はそう言って1本のソフトを手に取り、是露に見せた。


「あっ! それはっ! 泣く子も黙るという、伝説のちょうげきむずハイパーパズルゲーム! 『懊悩おうのう』! やったことあるよ……50面中の8面までしかクリア出来なかったよ……まさかっ!?」


「はいっ! 1回だけ全クリしましたよ! 奇跡的に」


「マジかよっ! 美化ちゃん、俺……君を超リスペクトするわ……!」


「やってみましょうか?(笑)」


「見たいっ! 奇跡を見せてくれ!」


「やれるだけやってみますっ!」

(久しぶりにやるけど……あの時の感覚は体が覚えてるっ! 目の前で全クリして是露先生にもっと褒められたい♡)


 是露は残酷のネル・フィードを抜いて懊悩のソフトをZERO WORLDに差し込み、再び電源を入れた。


「よーし! いくぞぉー!」


 美化はサクサクっと10面までクリアした。そこで美化はひとつ思い出した事があった。ポーズボタンを押してゲームを一時停止して、それを是露に聞いてみた。


「そういえば是露先生の名前って……なんでゼロって名付けられたんですか? 私はミケランジェロからとって美化なんですよ」


「そうなの!? ミケランジェロかぁ〜素敵だね…………」




 しーん




 是露はなかなか教えようとしない。


「だから〜! 是露先生はなんで是露って名付けられたんですかっ!?」


「えっ? ねぇ。ゼロって変な名前だよね……あはは」


「そんな事ないですよ! かっこいいって普通に思いますけど。ただ1回だけまさか、ZERO WORLDから名付けられたんじゃ? なーんて考えたことありましたよ!(笑)」


「はははっ、じゃあ、それで」


「え〜! なんで〜!? 私は教えたのにぃ〜!」


 美化は駄々っ子のように体を上下させながら言った。


「え〜だって、たいしたことないよ〜……」


「いいから教えて下さいっ! はやくっ! 早くっ!」


「え〜っと、じゃあ……まず『是』って文字には……『正しい』…って意味があるんだって……」


「うんうん♡」


「んで、『露』の方は『隠さない』って意味があるんだって」


「ほお〜♡」


「だから、正しく、隠さず、生きろ! みたいな? 感じみたい」


「え〜! すごぉい! 『是露』ってそういう意味が込められてたんだぁ♡」


「ははっ、全然、名前負けしちゃってるよ。正しくもないし……隠し事だらけだし……」


 是露の声が小さくなった。


「素敵……♡ 私なんて字だけみたら美しく化けろ! ですよっ!」


「はははっ。そうやって言われると、ちょっと面白いけどっ」


「いいもんっ! 美しく化けますからっ!」


「大丈夫! 美化ちゃんは美しいよ」


「そ、そうです……?」」

(きゅーん♡ ほんとに是露先生の言葉って胸に刺さる〜♡ 声質? 声のトーンかな? ズルいよ〜)


 そして……懊悩42面でクリアを断念。


「ま、前は全クリできたのにっ!」


「42面まで行くだけでも凄いから! 美化ちゃんはやっぱハンパねぇわ!」


「いやぁ〜♡ 『お恥ずかしい』」


 自然と是露の口癖を使ってしまった。


「ははははっ♪」「あははは♪」


 2人は見つめ合って笑った。


 ふと、外を見るとだいぶ暗くなっていた。


「あっもう、6時になるな。美化ちゃん帰る?」


「えっ? やだ」


 美化はまた駄々っ子みたいに言った。


「何時に帰るって言って出てきたの?」


「特には言ってないけど……まだ帰らない」


「じゃあ、あと30分ぐらいかな?」


「嫌」


「まったく困ったちゃんだな。俺、お腹空いてきちゃったよ。美化ちゃんも家でご飯作って待ってくれてるんじゃないの?」


 美化はスマホを取り出して電話をかけ始めた。


「あっ、おばあちゃん? 美化だけど。影山とご飯食べて帰る事になったから、うん、8時には帰るよ。はい、はーい。じゃねー」


 美化は通話を切り、静かにスマホをテーブルに置いた。




「………これで大丈夫です! えへ」


「じゃあ…………いっしょに食べよっか?(笑)」


「うん♡ 食べるっ!」


「よーし! なら、おすすめがあるんだ〜」


 是露はそう言うと、キッチンに小走りで行った。

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