追放されることになったので、幼馴染に最後の挨拶をすることにしたら少し、いや、かなり様子がおかしい。
@umibe
第1話 追放
つ、追放だとおおおおお!
俺はまさに今、領主から追放を言い渡された。この村では毎年、誰かしらが追放されている。領主は追放が趣味のアホなのだ。
「領主様はどうしてこうも追放がお好きなのですか?」俺は試しに訊いてみた。
「追放を言い渡された時の貴様ら農民の顔を見るのが好きなんだ」領主は悪びれる様子もなくそう言うと、癖のある直角髭を太い手で撫でた。
ちっ。腹が立つぜ。どうせ最後なんでぶん殴ってやろうかな。いずれにせよ、どうにかして報復しないと俺の腹の虫は収まりそうにない。
「しかし」と領主は言う。「今回の貴様の追放に関しては、特別な理由もあるのだよ」
特別な理由? 一体何だろうか。まあ追放されるのだから、関係ないか。
「それにしても、貴様は全く面白みに欠ける。飄々としやがって。少しは悔しそうな顔をしたらどうだ」そう言うくそ領主の表情の方が、よっぽど悔しそうである。
「悔しい。悔しいよぉぉ」俺はわざとらしく言った。
領主の顔はみるみる怒りに溢れていった。俺の皮肉が効いたのだ。豚野郎が。ざまぁみろ。
「この無礼者が! 貴様はたった今、この村の者ではなくなった。出て行け!」と豚野郎は叫んだ。
俺は踵を返して、豚に背中を向けて歩き始める。豚は俺の背中にいくつか罵声を浴びせていたが、その言葉は何一つ俺の耳には入って来なかった。ただ分かるのは、豚がろくでもないことを言っている、それだけだ。
さて、これからどうしようか。
18歳にして旅に出るのか、俺は。家族もないので、元々この村での肩身は狭かったから、ちょうど良いのかもしれない。ニアとはこれでお別れか。
ニアは俺と同い年の女の子だ。子供の頃からよく遊んだものである。親友だ。と言うか、この村でニア以外に俺と仲良くしてくれる人がいなかったのだ。
正直なところ、この村の人々はお世辞にも褒められたもんじゃない。ニア以外はね。彼女の両親だって、俺には冷たかった。
あんな両親からどうやってニアと言う素晴らしい女の子が誕生したのか、俺は甚だ疑問である。この謎は恐らく、宇宙終焉の時になっても明かされないだろう。
最低限の装備は揃えてから村を出ないとな。そう思って孤児院の部屋に行くと、使えそうなものは水筒とナイフぐらいしかなかった。
はあ、せめてニアには、最後の挨拶をしなければ。
俺は村のはずれにある小さな丘に足を伸ばす。ニアは暇な時いつも、その丘の頂上に生えている大木の下で日向ぼっこをしたり、絵を描いたりしているのだ。
「あ、いたいた」と俺はニアに声を掛けた。
彼女の首と一緒に、そのポニーテールの揺れるのが見える。
「ファイ、今日も暇ね」ニアはそう言って村を眺めた。
ニアの傍に座った俺は、彼女の横顔をちらりと見た。俺は彼女の横顔が好きだ。長いまつげ、少し吊り上がった目に高い鼻。要するにそう、ニアは美人なのだ。
好きなのはもちろん見た目だけじゃないぜ。性格だってそうだ。優しくて、男勝りだけど可愛らしいところもあって、いや、これ以上は辞めておこう。
「ねえ、話があるんだ」と俺は言った。
「あら奇遇ね。私もあなたに話があるの」ニアはそう言って俺の顔をじっと見つめた。
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