分厚い雲で太陽が隠れてすぐ、君は目をゆっくりと開いた。

 曇り空の下。小さな公園の滑り台の脇で、ぐいっぐいっと背を伸ばす君は、ぴょんぴょん跳ねる。汗でぐっしょりと濡れたランニングと短パンの隙間から水滴がしたたり落ちたけど、かまわずに何度もジャンプをする。

 ふと、滑り台から少し離れたところにある公園の入り口から、青いオーバーオールを着た栞ちゃんが駆けてきた。その姿を見て君は微笑む。

「ごめん、遅くなった」

 肩を落として息を切らす栞ちゃん。短い髪には、汗が滲んでいる。

「いいから、あそぼ」

 君は急かすように栞ちゃんの手をとった。

「ちょっと待って。……待ってってば!」

 止めようとする栞ちゃんの声も、君には聞こえてないみたい。ただただ夢中で滑り台の階段を駆け上がっていく。

「もぉ、仕方ないなぁ。たいちゃんは」

 栞ちゃんは苦笑いしながら、君に足並みを揃えた。そして滑り台の一番上に着いてすぐ、あまり気の進まなそうな顔で、後ろから君を抱える。

「ねぇ、この格好ですべるのやめない? あついし」

「シオリちゃんはぼくとすべるのいやなの?」

 振り向いた君の潤んだ目。栞ちゃんは観念したように溜め息を吐く。

「わかったわかった。一緒にすべろ」

 喜びをあらわにする君。それを見た栞ちゃんの目にも慈しみみたいなものが宿った。

 傾斜を滑り降りる黄身と栞ちゃん。その途中、

「ずっといっしょにいたいなぁ」

 君の無邪気な呟きに、

「そうだねぇ。そうなるといいね」

 栞ちゃんは気のない声を返した。

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