神様の作った乙女ゲーム世界でモブ生活を満喫中です
しぷりん
第0話 プロローグ
―――神様なんているのかな。
アニメか何かで聞いた台詞が不意に頭を過ぎり、私はついそれに心の中で答えた。
あー、えっと。いるみたいですよ?
霧の中っぽい真っ白な場所。霧は深いのに周囲は明るい。
何だか体がふわふわしてるから、夢の中だと思う。
そして目の前には、自らを神と名乗る虹色の光の玉が浮いている。
夢の中で会ったこの神様は、のほほんとした雰囲気で楽しそうに語りかけてきた。
◇
こんにちは。ニジマスの世界へようこそ。
この度、神様が新しく作った乙女ゲームの世界に転生したイチノ・シーリオです。
前世はごく普通に日本に生まれて育ち、まあ普通に日本で生涯を終えた日本人でした。ちょっとオタクでインドアで独り身だったけど、それなりに普通だったと思います。昔も今も女性です。
さて、フィクションでしか知らなかった異世界転生。まさか体験できる時が来るとは、世界のなんと広いこと。しかも既存の世界ではなく、文字通りの新世界。
前世で宇宙は膨張し続けていると聞いたけど、こうやって神様がホイホイ世界を作っていくからだったのだろうか。いやいや、ここは異次元の世界なのだから別の宇宙であるはず。それならば前世の宇宙の膨張は、神様の世界創造とは無関係ということになる。
つまりどういうことかと言うと、宇宙ヤバイ。
私は宇宙や天体の話が好きだったが、大して詳しくはなかった。
それはさておき。
私が会った神様は、丁度新しく世界を作るところだった。その時、ふと目に留まったのが私だったらしい。「縁じゃのう」と仙人のお爺さんみたいな喋り方で、神様は笑っていた。
そしてなんと神様は、私を基盤にして世界を構築すると言う。私の経験なり記憶なり性格なり魂なりを元に、である。
えっ、大丈夫なのそれ。
もっとまともでちゃんとした人を参考にしないと、リアルにヤバイ宇宙になっちゃうんじゃ。え、もう決めたの。そうですか。
話を聞いた瞬間、目眩がした。世界の創造ってそんなんでいいのか。崇高なる神様の壮大なご意思により、みたいな感じじゃないのか。ノリが軽すぎて実感がわかない。
いや、実感て何。ちらりと周りを窺っても、相変わらず濃霧の中だ。
しかし神様のほうは、なかなかいい感じに出来そうだとご満悦の様子。しかもその新しい世界に、ネタ元の私を転生させたいと言ってきた。
マジか。怖い。
「タイトルは『虹色の恋☆魔法マスター』、略して『ニジマス』じゃ」
「は?」
タイトルってなんだ。世界に名前なんてあるの。
思わず大きな声が出てしまった。自分の中のネガティブな部分が世界にどう反映するのか、酷い環境に突っ込まれてしまうのだろうか、不安で膝が崩れそうになっていた反動だ。大目に見てほしい。
そう、何を隠そう神様は、異世界転生の定番「乙女ゲームの世界へGO!」をやるつもりだった。但しゲーム内容は神様の新作。私が全く知らない物語となる。
それは最早ただの異世界なのでは、とは突っ込めない。
攻略本も用意するぞい、と言う神様の声はウキウキだった。
誰が読むんですかね、その攻略本。私か。攻略本でネタバレを読み、ゲームを周回したプレイヤーの心構えで行けということだろうか。
既に構想があるらしい神様は、好きなポジションに転生させてくれると言う。
「主人公のヒロインか、あえて悪役となりゲーム進行に逆らってみるか…」
「モブで」
「友人ポジションが良いかの?」
「主役達と一切関わらないモブで」
ネガティブ思考に定評がある自分を元に作られる世界だ。どんな部分を参考にされるか分からないので、色んな意味で賑やかであろう、世界の中心達とは距離を置いておきたい。
「そう心配せんでも大丈夫じゃよ」
そんな私の不安を見かねたのか、新世界はよくある平和な乙女ゲーム世界であり、ごく普通の生活ができるから安心しなさいと神様は付け足した。
マジですか! 良かった!!!
とんでもないバイオレンスな世界だったらどうしようかと思った。
ほっとして泣きそうだ。
「でもモブでいいです」
とはいえ、ゲーム的なあれこれとはやはり無縁でいたい。平坦に平和がいい。
「そうかの? しかし折角じゃ、他にも要望があれば聞くぞい」
「えっ、いいんですか!?」
「うむ。可能な限りはいくつでもオーケーじゃ」
そう答えた神様は、元々いわゆるチート能力をくれるつもりだったらしい。
ここにきて漸く私はテンションが上がった。
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