第2話 ここは雪国……じゃなくて戦場だった

 光の長いトンネルを抜けると戦場であった。(〇端〇成)


物凄い地鳴り。

響き渡る怒号。

飛散る血飛沫。


「なんだなんだなんだあっ!!!?」


 慌てて周りを見渡して状況を確認する。

ここは見知った俺の家のリビング。

そして外は異世界。


 リビングの窓から外を覗くといきなり目の前で騎士?らしき者同士が殺し合いをしていた。

腹から内臓をばら撒いて倒れた兵士や腕や足を切り取られて地面を転がっている者もいる。

胴体から切り離されて転がってきた生首が窓の前に転がって来た。

恨めしそうにこちらを見ている生首と目が合ってしまった。


 俺は2階に駆け上がり東西南北の窓から外を見渡して状況を確認する。

そして状況を理解した。

俺の家はどうやら山間の平原の戦場のど真ん中にいきなり出現したらしい。

現在そこで大軍同士が血で血を洗う激戦の真っ最中である。


 タイミングといい場所といい、いくら別世界へ転生するにしてももう少しマシな所があるだろう。

あの神様、温厚そうに見えてかなり俺に対して怒っていたに違いない。


 だがそんな凄惨な状況にありながらこの家自体は全く影響を受けていない感じがした。

家の4方向に取り付けてある防犯カメラの映像で確認する。

神様は絶対に怒っていた(断言)が、約束は果たしてくれたらしい。

この家は何が起ころうともびくともしない家に転生?している様だった。

俺の異世界スタート地点をでなくにしてくれたのは神様の最後の慈悲だったのかもしれない。


 そうと知ればやる事は一つ。

俺はとりあえず全力で現実逃避する事にした。

窓のカーテンを引き視界を遮りTVをつける。

何か面白い番組がやっていないかチャンネルを回した。


 うむ。

地デジ・CS・BS問題なし。

ちゃんと現代日本のTV番組が受信できているな。

外から叫び声や怒号が絶え間なく続くが気にしない事にする。

どうせ何もできないしな。

俺はボリュームを大にした。

若手芸人のコントをやっている。

TVから観客席の大きい笑い声が聞こえる。

家の外の悲鳴や騒音と実にミスマッチだ。


 そうだ、紅茶をいれよう。

優雅な午後を過ごすには美味いお茶が必要だ。

お茶うけにブ〇ックサンダーを出してソファーに身を沈める。

紅茶をすすると上品な味わいの中にうま味と酸味が感じられる。

うん、うまい。

たかがティーバッグと馬鹿に出来ない。


 外では相変わらず怒号・悲鳴・剣戟・地鳴り等の騒音が鳴り響いている。

余りに騒がしくてTVの音に集中できない。

ヘッドホンを使用することにした。


 暖かい爽やかな日差しが掃き出し窓からリビングにそそぐ……。

そう、ここは現代日本の日常ではなかなか得難いバカンスの最中だ。

無理矢理そう思う事にする。

だが日差しの爽やかさとは対照的に、窓の外では激しい戦闘が繰り広げられていた。

全身に矢を浴びた人がハリネズミになって次々と倒れてゆく陰惨な光景が視界に入る。

やれやれ。

せっかくのバカンス気分が台無しじゃないか。


 テレビの向こうの出窓からは兵士の腕が胴体から切り落とされるのが見えた。

軍馬に乗り切り合いながら敵へ突進していく騎士がこちらを驚いた表情で見ている。

こらこら、よそ見しちゃだめじゃないか。

案の定次の瞬間に騎士は胴体にブットい槍を受けて落馬する。

苦しそうに俺を見て手を伸ばすが、俺は無情にも出窓のブラインドを降ろした。


 激しい戦闘は当分終わりそうにない。

悲鳴と怒号と地鳴りのフルコースが果てしなく続く。


 ブラインドの隙間から悲惨な戦場を横目に見ながら優雅にティータイム。

ある意味とてもシュールだ。

小一時間ほどすると戦闘は完了した。

勝利した側だろうか、かわるがわる兵士達が外からわが家を覗いていく。

皆、何といっていいか微妙な表情をしていた。

ここで何している?

何でそんなのんびりしているんだ?

戦場のど真ん中に出現したとてつもなく違和感のある光景にそんなことを言いたげな表情だ。


 俺にも言いたい事が山ほどあるがとりあえずスルーする。

都合悪い事は見なかった事にしよう。

中年社畜リーマンの身に着けたスキルは半端ないのだ。


 そろそろ腹が減ったし何かネットで頼むか。

俺はパソコンを開いてネットに接続する。

試しにピザを注文した。

もしこれでピザが届かなかったら早急に神様にクレームを入れねば。

ピザなら届くのが早いので確認するのに最適だ。

まあ、どうやってクレームを入れればいいのかわからないが。


 15分が経過してチャイムが鳴った。

ドアを開けるとそこにはピザ屋のお兄さんが建っていた。

外からどう見えているかわからないがお兄さんはここが異世界だと気づいていないようだ。

空間がねじ曲がっているのだろうか。

いずれにしてもそれは神様がよろしく手配しているはずの事であって俺が悩む問題ではない。


 俺は品物を受け取り、部屋の中でピザを食べる。

うん、間違いない。

どうやらインターネット通販は問題ないようだ。

俺はその後もネットで色々注文して問題ない事を確認して安心した。


 いつの間にか夕方になっていた。

窓の外では大量の死体が転がっているがしょうがない。

日も落ちかけているし電動シャッターを下ろして視界をシャットアウトする。


 俺は確か死んだ身だからこう言うのも変な気がするが、今日は色々疲れた。

転生一日目は風呂に入って直ぐに休んだ。

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