第4話 居場所(4)




「……―――い」

なんだか自分の名前を呼ばれている気がして、土地喰いはそっと瞼を開けた。眩しい光がさっと差し込んできて、いつの間にか一晩明けていたのだと気がつく。

「…なんじゃ。夜が明けたか」

己の瞳に映り込んできた小僧に向かって手を伸ばすと、掴んで毛布の上から引き出してくれた。

天人は土地喰いを手のひらの上に乗っけて、

「馬鹿っ!死んじまったかと思って焦ったじゃねーか!」と怒鳴った。

「死ぬ?このわしが?」

「だって、お前、丸一日寝たきりでこっちの問いかけにもちっとも反応しなかったんだよ」

「じゃあ、今日は………」

「一月三日だ。しかも夜。もう今日は終わるぜ」

「そうか………」

わしの力も、そこまで注がれてしまったか…………。

天人から土地喰いが目を覚ましたと連絡を受けた舞子と佰乃は、千乃と一緒にいたのだが、急いで戻ってきた。途中で千乃は家に返し、自分たちだけ戻ってきたという始末だ。ここに土地喰いがいるとわかれば、彼女が何をしでかすかわからない以上隠しているしかいない。

ハルは突男と一緒に斧で薪の増幅作業をしている。

急いで家に駆け込んできた舞子と佰乃は息を整える。

「よかった……。目を覚ましたんだね」

「なんだ。そんなに驚くことではないだろう。こんなの普通に起こることじゃ。何を焦っておるのか…――」

「バカ言わないでよ!あんたが今死んじゃったら、私たちの依頼はどうなるのよ」

「そんなこと、わしの知ったことか」

「お前、最低だな………」

天人は手のひらに乗っけた土地喰いを、そっとテーブルの上に下ろした。

「まあ、とにかく目が覚めたなら早速この後のことを話さなくちゃいけないな。どうするんだよ」

「どうもこうも、それはわしがお前らに向けた依頼内容じゃ。考えろ」

「最低を超えて無責任だよ、お前……」

天人は痛む頭を抱えて椅子に腰を下ろした。

丁度、薪割りが終わったハルと突男が家へ戻ってきて、五人で考えることにした。

「千乃は土地喰いを探してるんだろう?で、土地喰いは見つかりたくない」

土地喰いはうんと頷く。

「うーんこのままじゃ、いたちごっこになっちまうし………」

「やっぱり、千乃さんの目的を探って行った方が手っ取り早いかな?」

舞子は突男から薪を受け取って囲炉裏に置く。

「そうだな。それがわからないことには何も進まないし」

ここで役割分担といこう。

天人達は囲炉裏を中心に円になり、土地喰いは床の上にちょこんと座った。

「俺と佰乃は千乃と行動するよ。土地喰いを探すって言って千乃のことを探っていこうと思う。その間、ハルと舞子は土地喰いを連れてどっか行っててくれ。舞子がいれば俺たちと鉢合わせになる様なこともないと思うし、一番良い分担分けだと思うんだけど…」といって天人はチラリとハルを見た。天人の視線に気がついたハルは眉を少し上げて肩をすくめる。

「いいんじゃない。それがリスクを最大限に下げられるやり方だしね」

「おまっ……。熱でもあんのか?」

「はぁ?」

天人は予想外の反応に動揺していた。

少し前まで、佰乃とハルを引き離したら拒絶して、俺を睨んで、挙げ句の果てに暴言だったあのハルが、俺の分担わけに賛成した?そんなこと天地がひっくり返ってもあり得ないと思っていたのに……。

天人はそっとハルの額に手を当てると、自分の額の厚さを比べて、

「……正常だ」

「当たり前だ、ばか」

軽く手を叩かれて天人は身を引いた。ハルは足を組み直す。

「……あれでしょ。どーせ天人が言いたいことなんか予想つくよ、でもね」

ハルの切長な目と、長いまつ毛が天人を捉えた。

「ハルだって、成長しないわけじゃないンだよ」

それだけいうとハルは口を閉ざした。

多くは語らない。

けれど、ハルが俺たちに何を言わんとしているかは理解できた。つまり、ハルは俺たちのことを少しは仲間として、友達として考えてくれているということだ。率直に言って嬉しい。天人と舞子はお互いの顔を見て、誰にもバレない様にクスリと笑った。

佰乃は結んだ髪の毛を軽くほどき、彼女もまた誰にもバレない様に微笑んだ。

突男は囲炉裏に火をつけ、

「よし。じゃタイムリミットはあと二日だ。それまでに千乃とやらの目的を聞き出さなければいけない。今日はもう寝て、明日に備えるんだな」

四人と一人は頷いて、各囲炉裏を囲む様に布団を敷いた。

突男の家には……家というか小屋に近いこの空間には風呂が存在しないため、夕方に銭湯へ行ってきた。今日はあと眠るだけだった。

四人はいそいそと布団に足を入れ、突男は最後に部屋の電気を消した。



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