第2話 助言の言葉(2)
☯️
「ど、どういうことだよ。突男」
岡山について早々、駅まで迎えにきてくれていた突男のマイカーに乗って天人達は人里離れた町までやってきた。そこはまるで、靁封町を移したかのようにそっくりで、雰囲気そのものが靁封町と瓜二つだった。しかし、やはり似ていたのは雰囲気で、突男のオープンカーに乗って街を回っていると、地形も町並みも、大分違った。靁封町は、あまり坂がなく、真ん中に町の象徴である山があることで有名なのだが、ここは坂が大きく目立ち、落ち着いた色の屋根を持つ家が多い。左手と右手には山山が並び、四方を緑色に囲まれている地形だ。靁封町が海を持ち合わせているのに反して、ここには緑しかない。
町へ着くと一番最初に目についたのは、大きな屋敷だった。佰乃と同じく、御三家に組み分けされる「榊家」の本家である。
天人達はその屋敷を素通りし、なんとオープンカーでさらに人里離れた山へと進んだ。そして、とある家の前で車は止まった。もう既に四人は酷く車酔いに苦しんでいた。
「いきなり、妖怪を探してくれって言われても………。そりゃあ、俺達だって探したくないわけじゃないけど、今から三時間後っていくら何でも無茶すぎだろっ!」
「そうと言わずに、お願いである。この通りだ」
深々と頭を下げる突男の姿に、四人はどうすれば良いのかわからず困ったように言葉を濁した。
突男が天人達を岡山へ呼んだのには深いわけがあった。
というのも、消えた大妖怪様を探してほしいとのことだったのだ。ここの土地には古くから土地神様がいるのだが、土地神と仲の良い大妖怪がいて、彼は土地神も同様、この土地を長年見守ってきていた。しかし、ある年に陰陽師達によって封じられてしまった大妖怪は一月二日だけその封印を解くことができ、その際土地のもの皆に助言をするようだ。その助言のおかげでこの土地は長い間守られてきており、特に問題沙汰になる様な大きなことは起きていないらしい。
しかし、その大妖怪が急に消えてしまったらしい。
岩に封印されている間も、大妖怪の微弱な揚力を感じ取ることができていたらしいのだが、今年の秋になってパタリと気配が消えて、もしかしたら本当に消えてしまったのではないかと側近の者達が心配し出した。そこへ、突男に頼み事にやってきた妖怪達の願いをこうして叶えようと奮闘しているのだ。
「いやいやいや!探すも何も、それ以前に!突っ込みたいところが山ほどあるんだが⁈」
「そ、そうよ!」
少なくとも疑問感を持っているのは天人だけではないようだ。舞子も珍しく突っかかるように声を張り上げた。
「何で、半妖の突男が妖怪達と仲良く会話しているのよ」
「何でと言われても……私は、既に陰陽師であることをやめて独りで生きてきているし、人間に加担する必要も理由もないんだ。地元の妖怪達とは仲良くやってるよ」
にこにこした笑顔を見せてくる突男。
「………」
天人達は苦い顔をしながらも、特に他人の行動に文句をつけることに意味はないので、本題へと戻った。
「今から三時間後に何があるんだよ」
「毎年行っている助言の時間だ。大妖怪は、今日一月二日に目覚めて、夕方五時に助言を行う。それまでに大妖怪を見つけないと今年の助言はなかったことになる」
「なかったらどうなるの?」
首を傾げる舞子に向かって、突男はより一層顔を険しくして言った。
「多分、妖怪達が混乱する………。いつも、妖怪達は大妖怪様のいっときの目覚めのためにお供え物を持ってくるのだ。しかし、目覚めないと知ったらきっと人間の仕業だと思い、最悪町に出て暴れるだろう」
想像したら、鳥肌が立った天人は腕をさすって立ち上がった。
これは、一刻も早く見つけなければならない。
「とりあえず、舞子の察知能力で見つけられそうにはないか?」
突男が舞子に話を振ると、舞子は首を横に振った。外にピューと冷たい風が通る。昨日雨が降ったらしいこの周辺では冷気が家の中にも侵入してくる勢いで空気が寒い。
「流石に、この町全域はきついよ。いくら小さい町だからといってもある程度範囲を絞ってくれないと私もたない」
「じゃあ、ある程度場所を絞ればいいんだな?」
「天人なにするつもり?」
「俺が、ある程度絞ってみる」
「そんなことしたら、天人だってすぐにダウンするじゃん」
「いいんだよ。俺と舞子はバックアップの方が向いているんだし、大体の場所がわかったら突男とハルと佰乃で行ってくるだろう?」
「……まあ、そうだけどさぁ」と口を尖らせて拗ねるハル。
天人は、心が少し暖かくなりながら緩む口元を引き締めた。
そして、家の外に出る。一気に寒さが体の中に侵入してきて、鳥肌が立った。しかし、時間はないので妖力に集中する。この町の、中心地に向けて目の神経を尖らせる。すると、町の方には妖怪の気配が感じられない。つまり、もし大妖怪がいるのであれば森の方だということになる。刹那、頭に右から左へ鋭い痛みが走り、思わず抑えて蹲る。
「あーくんっ!」
「大丈夫………ちょっと痛かっただけだから」
「でも………」
「本当に大丈夫だよ。おかげで、町の方にはいないことがわかった。いるとしたらこの家の裏にある森の方とか、四方を囲んでいる森の方だと思う」
四方を囲んでいる森は広範囲にわたる。本来ならもう少し絞りたいところだ。
天人は四方を囲む山々を見つめながら、突男に聞いた。
「なあ、大妖怪っていうのはどの辺に封印されていたんだ?」
「あっちの方だ」といって、突男は左奥を指さす。すると、天人はそこを含む山ではない方を見て、透視した。
多くの妖怪の気配がある中、微かに強い妖力をまとっている誰かがいる気がする………
大妖怪かどうかわからないけれど、時間がない以上そちらにかけてみるのも手である。
「左奥にそれっぽい気配を感じたから、あとは舞子に任せるわ」
天人はズキズキと痛む頭の奥の鈍い痛みに耐えながら、四人に背を向けた。手をひらひらと降って家の中へと消えていく。
舞子は深くため息をついて、突男の車のそばへ行った。
「あーくんがああいうなら、行くしかないね。突男、この車で行けるところまで案内してもらってもいい?」
「ああ」と突男が相槌を打って、三人はオープンカーへ乗り込んだ。
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