金剛の如き者

@sodecaxtuku

金剛は未だ柔く

第1話 

2025年、人類は進化した。


人類はある日特殊な能力に目覚めた。

ある者は火を操り、ある者は風に乗り、またある者は光を超えた。

世界はその異常事態に困惑を極め、その力を使い暴走する者も現れた。

しかし、それをある男が止めた。その者は全てを断ち切り、そして断罪した。

その男の名前は金剛 武蔵、俺の父親。

そして俺の名前は金剛 堅冨、つまりは英雄の息子。


みんなは俺の境遇が羨ましいと思うだろうか、英雄の息子だ、それこそ幼少から甘やかされて生きてるのだと思うだろう。

しかしそんな事は一切無い、英雄の息子だからと過剰な期待をされて歩けるようになった瞬間から毎日地獄のような鍛錬をやらされている。

しかもそれは俺の能力が判明するとより過激になった。


俺の父親、英雄武蔵の能力は《剣聖》。その能力は剣技は神の領域へと達し、ありと凡ゆる物を切ることが出来る能力。

ハッキリ言ってチートだ、一人だけ即死攻撃をしてくるのだ、無理ゲーも程々にしてほしい。

しかし、だからこそだろう周りが俺に期待をしたのは。

俺の父親の能力は《剣聖》、母親は《破壊》。

故に俺の能力は期待されたのだ、類い稀なる能力を持った二人の子供、きっと他の追随を許さない英雄の息子に相応しい能力を持っていると。

能力の名は《金剛》、使うと異常な硬度になる能力。弱くはない、寧ろ世間的には大当たりの部類だ。

しかし、世間はSSRではなくLRを。

まさに伝説と成る能力を求めていた。

世間はその能力が判明すると掌を返し好き勝手に言うようになった。


「鷹は雀を産んだ」

「もしやあの女は他の種を貰ったのでは」

「そうに違いない、でなければああはならん」


そう言う周りの言葉に母は俺に涙を流し、ただ「ごめんね」とだけ言って毎日抱きしめ続けた。 


俺が生まれて一年後に俺に弟ができた。

名前は剣一、ほっぺを触ろうとすると俺の指を掴んできて可愛かった。

弟は能力が判明するまで俺と違い自由な行動を許されていた。


弟は毎日のように本を読んでいた、それこそ絵本から専門的な知識が必要な論文まで。

弟を天才だと思っていた、雰囲気が大人びており、言葉遣いも何処で覚えたのか不安に成る程に丁寧だった。

俺はそんな不思議な弟を守れる程に強くなれる事を夢に目指し始めていた。

しかし、その夢も一瞬で崩れ去る。

弟の能力が判明する、能力は《剣聖》、父親と同じ能力。

弟は一瞬で俺の人生を越えた、更には《破壊》すら所有していて俺の弟は世界で初めての多重能力者となった。


世界が壊れる音がした、俺独りだけ世界に置いていかれる感覚がした。

その日から俺の鍛錬はなくなり、代わりに弟がやる事になった。

俺は何度も父親に抗議した。


「俺だって強くなりたい!父さん!俺も鍛えてくれよ!」


俺がそう言うと父親はいつも困った顔で決まってこう言った。


「堅冨、お前に教える事はない。部屋に戻ってろ」


俺はそれを聞くといつも苦虫を噛み潰したようかのような胸糞の悪さに襲われ、部屋に戻っては静かに泣いた。

俺はその日も父親に断られて独り部屋に戻った、しかし後ろから俺を呼ぶ声がしたので振り向いた。


「あっ、兄さんこっち向いた」


振り向くとそこには弟が居た、満面の笑みでそこに立っていた。


「どうしたんだ?何か用か?」


俺は弟に何の用か聞いた、するとゆっくりと近づいてきて俺にこう言った。


「ざまぁ」


俺は何を言っているのか分からなかった、その為聞き返そうと口を開こうとしたが出たのは言葉ではなく手だった。


「は?」


俺は何が何だかわからなかった、普通に話しかけようとしただけなのに手が勝手に動いた。

弟は俺に殴り飛ばされた後に大泣きし、俺はやってきた父親に殴り飛ばされそのまま部屋に折檻された。


そして部屋に閉じ込められて一晩が経った俺は部屋から出され、父親にこう言われた。


「お前には失望した、鍛錬させてもらえないからと剣一に毎日殴る蹴るなどの暴行をして」

「お前には家を出て行ってもらう、家は用意してある。さっさと車に乗れ」


俺は困惑した、何故やってもいない罪で俺は家を追い出されなくてはいけないのか。

俺が抗議しようと口を開くと頬を殴られた。


「早くしろ!」


とだけ告げどこかへ行ってしまった。

俺は痛む頬をさすりながら家から出て目の前に停めてある車に乗り込む。

車に乗り込み、シートベルトをつけて家の方を見る。

そこには怒り心頭の父親と真顔の母親。

そして、俺の方を見てニヤニヤ笑っている弟の姿。

俺は理解した、弟が、アイツが俺の事を嵌めやがったと。

理解した瞬間に怒りが込み上げてくる、アイツの策略に簡単に嵌った俺の迂闊さに。

そして血の繋がった血族ですら己の為ならば喜んで切り捨てるアイツの性根に。

俺は幼ながら人生の目標が決まった。


「アイツをぶん殴ってやる」


あの怪物の心がへし折れるまでに、完膚なきまでに殴る。余すところが無くなるほどに殴る。こんな事をやったアイツに反省なんかさせるものか、一生後悔させてやろう。

俺は泣きながら、拳から血が滲み出るほどに強く握り、そう決心した、


2037年の6月13日、俺が6歳になる前日の事だった。




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