君に捧げたいリリックはダイナミック

10月20日 PM10:25

「あー、あー……テスト……聞こえてるかな? ユカちゃん、まずはメッセージを読んでくれてありがとう。急に話しかけてごめんね。文化祭の時期に、あまり話したことのない俺が近付いて迷惑だったかもしれない。それでも、どうしても伝えたいことがあるんだ。普通こういうのは手紙で渡すべきなんだろうけど、それでは想いが伝わらない気がして。俺、リリック入りの音源を作ってきました。今から流すので、聞いてください」


(16小節のビートが流れ始める)


ai yo 伝えるぜサンプリングなしの想い

届いてくれ 俺の歌詞の重み


あれは4ヶ月前 振り向いた横顔まで

覚えてる綿密 折れるペンシル 教室に舞い降りたエンジェル まるでエンディング?


君はみんなに優しい like a 博愛精神

それで回るタービンエンジン 吹っ飛ぶ頭のネジ

まるで好転反応 引き起こして動転、感情!


フェルマーも解けない最終定理 減っていくライフゲージ

君は俺の最終兵器 彼女にしたいんだ最終的!


(ビートがフェードアウトしていく)


「これが俺の気持ちです。その……真剣にやりました。返事はいつでもいいので、待ってます」


 録音終了。震える手で送信ボタンを押す。これでもう取り消せない。何より、ここで引くのはリアルじゃない。

 俺は薄目でトーク画面を見つめながら、薄暗い部屋の隅に置かれた古いカセットデッキを撫でる。父親が使っていたものを修理し、音源を流せるようにした相棒は、俺の相談相手代わりだった。左右の円形スピーカーが大きな瞳のようで、俺の悩みを驚いたような顔で黙って聞いてくれる。俺は丁寧に埃を拭き取り、ベッドに入った。


 文化祭まで、あと2週間。

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