第13話 トラウマ

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 フロルさんによると、どうやら俺は金だけを置いてどこかへ行ったみたい。ジオンガルムとリザードを討伐した次の日の真夜中、扉の開いた音がして見に行ったら、村長の家の扉の前に討伐で得た金が置かれてあったらしい。


 その時、俺の姿は暗くて見えなかったとか。


 それであのまま帰ってくることはなかったらしい。置き手紙も何も書いてなかったから村人の皆は心配していたし、ちょうど物音がすると外に出てみたら討伐者の俺じゃなくゴブリンがわんさか湧いていたみたい。


「そこからは大惨事でしたよ。扉を開けたルイは殴られて気絶、私は割れたガラスで手を怪我し、ハラさんも家具に押し潰されそうになったんですから」


 なるほど、聞いた話をまとめると……俺は3日間どこかに行っていた? なんで? 俺は確かリザードとジオンガルムを討伐した後、悪い夢を見て起きたら村長の家だった。疲れているせいで金を置いた時とかはよく覚えていない感じかもな。


 とりあえず、俺は気が気でない。


 今はとにかく、ルイさんが無事なのかどうかが気になる。俺はルイさんとの縁でこの村で働くことになった。全て彼女のお陰だ、最初に出会った時からまだ数日しか経っていないが、色々とこの村についてを教えてもらった記憶がある。


 言ってしまうと、あの時は楽しかったんだ。久しぶりに若い人と話すルイさんと、大変なことが積み重なって落ち込んでいた俺。バーンズ村は、他の村でモンスターに襲われた人々を助けるための村と聞いた時、感動した。


 儲けとか関係なく、モンスターの被害を受けた人々を守るために、村長はバーンズ村を作ったんだ。結果、お金が足りなくなり苦労していたところ俺と出会った。


 俺も儲けとか興味ないし、村長も興味ない。こんな素晴らしい村を、俺のせいで台無しにしてしまった。モンスターに襲われた人達を救う村なのに、俺のせいで新たなトラウマを植え付けてしまった。


 というか、何でゴブリンが村に湧いていたか。その理由、今なら分かる気がする。集落の近くにいるゴブリンを討伐した時、俺は2体のゴブリンの子供を見逃した。可哀想だったから。でもこいつらがゴブリンを引き連れたんだ。仲間を失った報復として、バーンズ村を襲ったんだ。


 心に決めた、これからは完全にモンスターを討伐しよう。俺だけのためじゃない、皆のため。少なくとも害のあるモンスターは必要ない。車とかに使われているモンスターも危険だが、そいつらは今は関係ない。ゴブリンとかスケルトンとか、人間を襲ってくる輩は完全に俺が滅ぼしてやる。


 で、今俺がやりたいのは……ルイさんが生きているかどうか知りたい。ゴブリンの棍棒で殴られたんだ。生死をさまよっていてもおかしくない。俺はハラさんに居場所を聞き、そこから駆け出した。


 ぶっちゃけ、この集落から都市までは言葉で言い表せない程に離れている。普通に走っているようじゃ何日もかかる。モンスターの引く車でやっと半日で着くくらい。それを人間だけで行こうとしているんだ、そう思えば無茶に感じるだろうが違う。俺には謎の能力があるから平気だ。


「腕を大きく振ると、もっと速くなる」


 さっきまで空気を読んでいたのか黙っていたネオルが、優しい声で俺に伝えた。ありがとう、こういう声がけが助かる。彼のアドバイス通りに腕を大きく振るようにして走ると、格段と速くなった。もう車とかよりも断然速い、体力の消耗は激しいがそんなこと気にしてられない。


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 ずっと走り続けていると1時間くらいで体に限界が来た。普通ならもっと走れるだろうが、今は限界を超えて走っている。そのお陰か、もうバルパーの端の建物が視認できるくらいには近づいた。もう一度言おう、モンスターの引く車だと半日はかかる。それを俺は1時間くらいで走り抜いたのだ。


 この能力、半端ない。


 もう疲れ切っているが、最後の力を振り絞ってバルパー中の病院を駆け回った。ハラさんからは「バルパーのどこかの病院に運ばれた」としか聞いていないため、全ての病院を回る必要があった。病院の扉を開けて「ルイ・エスパーラはいませんか?」と尋ねる。「いいえ」と答えられたら扉を閉めてすぐ次の病院に向かって走る。


 途中で通行人に「エボリュードのメンバーがどうしてここに?」とか聞かれたが無視。今はルイさんの安否が気になるから。それに俺はもうエボリュードから追放された、全く関係のない身だ。


 そしてバルパーの東側にあるマルチバ病院というところで、やっとルイさんと村長に出会うことができた。彼女は頭に包帯を巻いていたもののピンピンしており、何事も無かったかのように果実を頬張っていた。


「エルドさん? どうしてここに?」


「どうしてって……ルイさんが頭を殴られたと聞いたので心配になって……」


「ご迷惑をおかけしました。もう私は見ての通り元気なので大丈夫です。入院の必要はないみたいなので」


 彼女は笑顔で俺にそう伝えながらも、南の方でしか咲かない珍しい果実を頬張っていた。良かった、生きていた。その事実を噛み締めた俺は帰ろうとしたが、村長に引き止められた。


「ちょっと臭いがキツい。ゴブリンは討伐したのか?」


「はい」


 ここに来るまで、1回も体を洗うようなことはしていない。ゴブリンを倒してゴルゴリを討伐した後、集落の方に行ってからそのまま走ってここに来た。だから服にはゴブリンの返り血がビッシリと付いている。ゴルゴリに至っては口から死の液体を噴出していたから、その臭いもあるだろう。


「病院の風呂を借りて体を洗え。それと……喫茶店にでも行って2人で話し合ってこい。久しぶりに贅沢でもしてこないとな」


 村長の良い提案に従い、俺は病院の風呂で体を洗った。モンスターの血は普通落ちにくいのだが、ここはモンスターに襲われた人が来るような病院のため、専用の洗剤とかが置いてあった。よかった、これでもエボリュード時代は苦労したんだ。血を落とすのが難しくて。


「じゃあ、また後で」


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