飛べない小鳥(昔のこと〜聡子編2〜)
一年後、私の予想は的中した。というより、毎期のテストが嫌なのだ。これさえなければ、こんな日が来なければ、と思う。私には未来なんかなくて、お先真っ暗なのだ。
ふと決心して、私は電車を乗り継いだ。路線図でルートを調べて、海岸の風を浴びにいく。思いきり、潮風に吹かれたい。そして自由になれたら、最高だ。最期に悔いもなく、誰にも邪魔されず、鳥のように羽ばたきたい。もうテストの点なんて気にしなくていいんだ。
潮風は、気持ちがいい。けれど、海岸は工業地域で、煙臭く、潮風だけではなかった。こんなところにくる女子高生なんかいないだろうな。まして、制服を着たまま。私は、一番海に近い建物の中に入って行った。誰にも遭遇せず、鍵は開いていた。非常階段のような階段を上がると、屋上に出られた。
潮風を思いきり吸いたいのに、煙が混じる。それでも、鳥は、公害なんて関係なく、自由に羽ばたいている。
手すりの上に、足をかけてぶらぶらした。下を見ると、少し怖い。だから上を見る。鳥のようになれたら……。
涙が出てきた。お父さん、お母さん、ごめんなさいと。本当は辛くて、わかってほしかっただけなのに、期待に応えるわけでもなく、逃げてばかりで、出来が悪い娘だった、と、思い返した。
でも私は決めたのだ。今日、ここから飛び降ります。一番いい場所だと思う。
手すりに立ったら、バランスを崩しそうになって、冷や汗をかいた。
鳥が横に止まっている。私も靴を脱いだら、鳥の足みたいに、手すりをつかめるのかな。
やっぱり、やめようか。いや……。
私は迷った。ふと、人の気配を感じて、振り返った。
「さっきから何やってんの? 落ちる根性もないくせに」
「何もしてない。鳥の真似しようと思ってただけ」
彼はしばらく黙っていて、つぶやいた。
「ひよこのくせに一人前に飛ぶなんて十年早いわ」
「練習が必要みたい」
「よそでやってくれないか? ここはおれのシマなんだ。お前の血でけがれてしまう」
「わかったわ」
「おいちょっと待てよ」
私が階段に向かおうとすると、彼が止めた。
「せっかく決めてきたのに邪魔が入るなんて、予定外」
「おれだって、ここおれの喫煙場所なのにお前なんかに遭遇して心乱されたわ」
「勝手に入ってごめんなさい。もう来ないから」
「それだけか?」
「お節介ね」
彼は静かに言った。
「お前のその気持ち、わからないわけじゃない」
「あなたも飛びたいの?」
「そこまでは決めてない。おれは死ぬ時に周りに迷惑かけたくない。せめて何か親孝行をしてからと思ってる」
「親なんて、子供をおもちゃくらいにしか思ってないわ」
「そんなことないだろ」
「やっぱりあなたにはわからないの」
どうして死ぬ前にお説教されてるの?
夢?
私は、もう、あの世にいるの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます