第二話 妖
「さぁ、兄さま座学の時間ですから移動しましょう。爺やが首をながーくしてまっていますよ」
桔梗は呆れ顔で兄の背を押しつつ部屋から出るように催促する。
事の爺やとは、代々神楽家へ使えている「
名を「
歳は60代であろうか? 年相応のシワなどはあるが、勇ましい顔立に銀髪の髪を後ろで束ね、瞳は意志の強さを感じる白銀、小柄ではあるが鍛え抜かれた身体をしている。
父より獣士たるもの勉学も必要と言いつけられており、桔梗と奏の身の回りの世話と同時に勉学、武術の師でもあった。
初老であるゆえ博識で武の心得もあるという元気な爺やである。
「……座学。もう僕は受けなくてもいいんだけどな。桔梗一人でいいだろ?
それにだ! 僕はまだ朝餉をしていないぞ!」
彼は朝餉を澄ましていないのである。
起きないだけで朝餉を抜きにされるとはひどい話だ。
そう思っているが起きないほうが悪いのである。
それと奏は座学が大嫌いなのである。
退屈でありそんな知識どこで使うんだ! っと彼は思っているのである。
「それはぐうだらな兄さまが悪いのであって、先ほども抜きといったではありませんか! ——あっ」っと彼女が注意を促す前に……
まして、あのボケ爺は奏にだけには厳しいのだ。
武術だけであれば父と対等に渡り合える腕を持っている彼にとって、学ぶことが少
ないのだ。
そう心の中でふけっている彼の耳端を『ぎゅー』っと引っ張られ鈍い痛みが走る。
「いだだっ……! 爺や痛いぞ!」
っと誰にされたかと悟りつつ悶絶する。
「奏様ボケ爺とは誰のことですかな? 最近、耳が遠くなりましてな。教えれくれると助かりますのじゃ」
そこには灰の眉根を少し引きつらせつつ、能面のような表情で覗き込んでくる爺やである。
「先に準備をしてきます!」っと元気に去っていく桔梗を横目にみつつ
あれ? おかしい? 言葉に出してないけど通じてる——?
っと思う奏であったが、抗議もむなしく首根っこを掴まれ連行されていく。
初老とは思えないほどの腕力で大の大人を軽々と運ぶ爺やである。
♦
歩くこと数刻、日当たりの悪い奏の部屋とは正反対にある学びの部屋へ着く
すでに準備の出来ている妹が、座布団を『バシッバシ』と叩いて催促してくる。
奏は肩をすくめいつもの場所へ胡坐をかく。
「爺やおはようございます! では、座学を始めましょう!」
っと元気よく声を上げる桔梗。
彼女は学ぶことが好きで、いつも瑠璃の瞳を輝かせつつ座学の時間を楽しみにしてるのである。
「ほほっ。桔梗様は今日もお元気で。本日は『妖』について学びましょうかの。生業に必要な知識もあると思われるので、しっかり覚えてくだされ」
爺やは二人を交互に見据え一息つき語る——妖の性質を。
「
種類は様々で、虫などの昆虫型、獣の姿を模したものや獣そのもの、人に模した人型、実体のない
憑依した媒体によって差はあるが、人や家畜などを襲うものもおり、中には高い知性を持った災害級の化け物になることもある。
数百年前、1匹の妖によって大きな集落が一晩で滅んだと記述されていることもあった。
知性がある個体がどういった経緯で存在するかは未だわからないとされている。
ここ数年は、そういった高位の存在は確認されていない。
一説には堕ちた人、神が堕ちた存在ではないか? といった噂もあったが真相は解明されいてない。
「妖とは我々とこの世に害をなす存在でありますのじゃ。放置することは出来ない存在です。そこで……」っと爺やの続きを説明する前に
「爺や! それを滅するのが「獣士」ですね!」っと桔梗が自慢げに『ふふんっ』と鼻を鳴らしつつ胸を張り言葉を遮る。
奏は『はぁ~』とため息をつきつつ『爺やの説明を待て』っと桔梗のおでこを中指で「ピシッ」っと打ち込む。
彼女は赤く擦れたおでこを両手で抑えつつ、頬を風船のように膨らませ『むぅ。』っと押し黙る。
「ふふ。御二人とも一息を入れて『
仲良き兄弟やり取りを微笑ましく見守りつつ、爺やは部屋を出ていくのであった。
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