第11話
アダマンタイト級ダンジョン『神狼の住処』を脱出した俺とルリは、その足で一番近いマルクス辺境伯領の辺境の街マスイへと向かった。
『神狼の住処』から数十分歩くと遠くの方にマスイの街が見えて来た。
「そろそろマスイの街に着くからルリは念のためこの辺りで人化しておいてくれるか。街に入る時にフェンリルのままだと騒ぎが起きる可能性があるからな。用心に越したことはない」
エルクがルリにそう言うとルリは人化のスキルを使って人化した。
「よし、ちゃんと服装はこの前ダンジョンの中で調整した時の露出があまりないタイプの服になっているな」
「当たり前でしょ。この前あなたにお願いされたばかりだし、この服装も何だかんだで結構気に入っているのよ。それに、あ、あの服装はあなたにしか見せたくないしね」
「そ、そうか、……よ、よし、マスイの街までもう少しだし、い、行くか」
エルクはルリにそう言うとルリの手を優しく掴んで少し強引に引っ張っていく形で歩き出した。
マスイの街に着くと街の門の前には街の中に入ろうとしている商人たちによって列が出来上がっていた。
「お、結構並んでいるな。これは俺たちの番が来るまで多少時間がかかるかもな」
「そうね。それじゃあ、エルクの数少ない荷物の中にあった。私の伝説が書いてあるって言う書物でも読んで時間を潰しておくわね。順番が近づいたら読んでちょうだい」
ルリはエルクにそう言うと勝手に箱庭のゲートを開いて中に入って行ってしまった。
どうやら箱庭のゲートは従魔たちでも開くことが出来る様だな。後でルリに聞いてみよう。
そして、エルクは自分たちの順番が来るのを数十分待つのであった。
エルクは自分たちの番がそろそろ来そうだったので箱庭のゲートを開いて首だけゲートに突っ込むと、ルリは小屋の近くにイスを持って来てそのイスにゆったりと座りながら読書を楽しんでいた。
「お~い。ルリ、そろそろ俺たちの番が来るからこっちに来てくれ」
「わかったわ。イスとか片付けてから行くからちょっとそっちで待っていてくれる。ゲートはこっちで開けるから閉じておいて大丈夫よ」
「わかった」
ルリがそう言うのでエルクはゲートを閉じて自分たちの番が来るのを待っていると、再び箱庭のゲートが開いてルリがいそいそと出て来た。
「お、出て来たか。後数分もすれば順番が回って来るぞ。あ、それよりルリも箱庭のゲートを開くことが出来たんだな。正直、ちょっと驚いたぞ。何で前もって教えてくれなかったんだよ」
「そんなの決まっているじゃない。エルクを驚かせるためよ。たまには驚く方じゃなくて驚かせる方になるのも良いかなって思ったのよ。で、驚かされてどう思った」
「そ、そりゃあ、……たまには驚かされるのも良いかなって思ったよ。お前にならな」
「え、最後の方が声が小さくて聞き取れなかったんだけど、何て言ったの」
「ふん、何でもねえよ」
「うっそだぁ。絶対に何か言ってたもん」
「あ、そろそろ俺たちの番だぞ」
後ろで「後で絶対に聞き出してやるんだからね」と言うルリの言葉が聞こえて来たがエルクは聞かなかったことにしてルリを連れて門番の所に向かった。
「お、お二人さんともこの辺じゃあ見ない顔だな。冒険者か」
「いやいや、見ない顔って、彼女のことは兎も角俺のことは、……覚えている訳ないか。ああ、そうだ。だけど彼女はまだ冒険者登録をしていないから、通行料を払うよ」
エルクは門番に自分のギルドカードを見せながら言った。
「そうか、それじゃあ、そっちの嬢ちゃんの通行量だけ払ってくれ。王国銀貨二枚、世界共通銀貨なら四枚だ」
「はいよ」
「ああ、王国銀貨二枚だな。丁度だな。それじゃあ、ようこそマスイの街へ、存分に楽しんでいってくれ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
そうして、エルクとルリはマスイの街に入って行った。
門番にルリの分の通行料百ベルドを払ってマスイの街に入ったエルクとルリは、早速ルリのギルドカードを作って冒険者登録をするために冒険者ギルドマスイ支部へと向かった。
「ここがマスイの街の冒険者ギルドなのね。何だか思っていたよりもこじんまりとしているのね。もっと大きい建物を想像していたのだけれど、ねえエルク、冒険者ギルドの建物はどこの街もこんな感じなのかしら」
「いいや、このマスイの街はマルクス辺境伯領の中にある街の中でも特に辺境にあるド田舎の街だからな。領都とか主要な街にある冒険者ギルドはもっと立派な建物だよ。中でも王都の冒険者ギルドはとても立派でな。見た目はもう完全にお城って感じなんだよ」
「へえ、街によって色々なのね。それじゃあ、ギルドの中に入りましょうか」
そして、エルクはルリを連れてマスイの冒険者ギルドの中に入って行った。
ギルドの中に入ったエルクとルリはそのまま真っすぐ幾つかあるカウンターうちの空いているところに向かった。
「ようこそお越しくださいました。それで、依頼の申し込みですかそれとも冒険者の登録ですか」
「ああ、彼女の冒険者登録をお願いしたいのですが」
「わかりました。この方の冒険者登録ですね。少々お待ちください」
エルクとルリを担当してくれた受付嬢が、受付カウンターの奥に行ってから数分後、その受付嬢が掌サイズの水晶玉を持って来てカウンターの上に置いた。
「では、これから冒険者の身分証であるギルドカードを作りますので、この水晶玉に手をかざして頂けますか」
受付嬢にそう言われたルリは手を水晶玉にかざした。
すると水晶玉にルリのステータスが一瞬映し出されてから水晶玉の下に置かれていたカードにルリのステータスが吸い込まれていった。
「これでギルドカードの完成です。失くしてしまいますと王国金貨二枚かかってしまいますので絶対に無くさないで下さいね。では、ギルドのルールなどの説明はいかがしますか」
「ああ、それについてはオレの方で説明しておくよ。それじゃあ、今日は結構遅い時間になっているからこれで失礼するよ」
エルクは受付嬢にそう言うと今夜の寝床である箱庭のゲートを開けるために人っ気のない路地裏に入りゲートを開いて箱庭に入って行った。
「よし、まずは、今夜の夕食でも作るかな。ルリ、魔力のキャベツを千切りにしておいてくれるか。俺はこれから銀イワナをさばくから千切りキャベツを作り終わったら体力トマトを小さく切ってサラダを作っておいてくれ」
「わかったわ」
エルクはルリにサラダを作る様に指示すると銀イワナを三枚におろして汁物に使うだしをとるために真ん中の骨付きを鍋の中に入れて煮込み、残りの二枚で素揚げを作ることにした。
「よし、ルリ、飯が出来たから運ぶのを手伝ってくれ」
「あら、なんだかとても美味しそうね。この汁物は一体何なのかしら。見たことが無いのだけれど」
「ああ、それは東にある遠いい島国で食べられている味噌汁って言う汁物だ。記憶喪失で行く当てのなかった俺を育ててくれた夫婦がいてなその人たちが住んでいた村にその東の島国出身の人がいてさ、その人に習ったんだ。すっごく美味しいから食ってみろ」
「そう、わかったわ」
ルリはそう言って味噌汁の入ったお椀に手を伸ばして一口飲んだ。
ルリは味噌汁を飲んだ瞬間に目を大きく見開いて次の瞬間、勢いよく飲み始めた。
ルリは、「あ、もう無いわ」と呟いて心底残念そうに肩を落とした。
「まあ、そう慌てるな。味噌汁のおかわりはまだあるから他の飯も食べろ。それとそんなに勢いよく食べると飯が喉につっかえるぞ」
「わ、わかったわよ」
そして、騒ぎながら夕食を食べたエルクとルリは、その日は風呂に入って早々に眠りに就くのだった。
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