第2話 僕としおんはゲームする。
⚁
僕としおんは帰り道、公園に立ち寄った。
公園のすぐ傍にはコンビニと自動販売機があったので、僕としおんは飲み物とおやつを購入した。公園の真ん中には屋根付きの休憩スペースがあり、そこにはテーブルと椅子も備え付けられている。僕と
「じゃ、じゃあ、説明する……ね」
早速、しおんのレクチャーが開始される。
「TRPGでは、まずはキャラクターを作成するの。サイコロを振って能力値を決めて、種族や職業を選択する。キャラクターの情報は、キャラクターシートに書き込んで管理するの。キャラクターシートには……イメージイラストを書き込んでも良いの、よ」
「ふうん。世界観は普通のファンタジーRPGと同じなんだね」
「ええ。じゃあ、早速サイコロを振ってみて」
僕はしおんに言われ、3つのサイコロを数回、振ってみる。
ルールブックを見ながら数値を確認すると、
「そ、その能力だったら、魔法使いになれるわ。
「ううん……だったら、エルフの冒険者をやってみようかな。成長は遅いけど、剣も魔法も使えるのは魅力だ」
「じゃあ、エルフで決まり、ね」
そう言って、しおんは屈託のない微笑を浮かべる、そのあどけない眼差しが、僕の奥に刺さる。また、心臓がトクリと鳴った。
僕はしおんに勧められ、キャラクターのイラストも描いてみた。薄水色の長髪をした、エルフの少年だ。弓矢を構え、長剣を背負っている。
「わあ。
「そ、そうかな?」
「ええ。とっても綺麗。それに上手! 凄い、凄い……凄い!」
しおんは僕の絵を見て、無邪気に笑う。
ちなみに〝
「じゃあ、早速始めましょう。ルールは追って説明する。まずは、習うより慣れろ。よ」
「うん。始めよう。どうしたら良いのかな?」
僕が言うと、しおんはそっと手を伸ばし、僕の手を取った。綺麗な瞳が夕日を湛え、僕の眼を覗き込んでいる。頬が熱くなった。
すう。と、しおんは息を吸う。
⚂
「想像して。ここは九月の公園ではない。辺り一面は雪で、
しおんは真剣な眼差しで言う。
僕も呼吸を止め、イメージする。見渡す公園には、ちらほらと雪が降り始め、それは雪原へと変わってゆく。空気が、冷たさを増す。風の音に混ざり、遠くからは剣を撃ちつけ合う音がする。僕は雪に足を取られながら、音へと歩み出す。
それは人間誰しもが持つ、想像力という名の魔法だった。そう。僕等は想像力一つで何処へだっていける。それが異世界であっても。
「貴方の名前は スター・ライト。
「うん。気に入ったよ」
「じゃあ、行きなさいライト。貴方の集落が襲撃を受けている。両親と、可愛い妹を救うのよ!」
しおんに言われ、僕は駆け出した。
雪原の向こうには森がある。森からは煙が上がり、燃え盛る火も見える。悲鳴に怒号、争いによる破壊音。それらがひと塊となって、冷えた身体に押し寄せる。
僕、否、ライトは、走りまくってエルフの集落へと辿り着いた。
「ライトは集落へと辿り着き、辺りを見回します。すると家々には火がかけられて、里で一番のご神木も燃えている。ライトは慌てて自宅へと向かい、扉を開けました。すると……」
「すると?」
僕は思わず物語にのめり込み、しおんの言葉を待ちわびていた。しおんは続ける。
「家の奥から女の子の悲鳴が聞こえました。妹の『プラチナ』の声です。さあ、スター・ライト。貴方はどうしますか?」
しおんの瞳が不敵に僕を捉える。
「助けるに決まってる! でも、僕の武装は?」
「ふふ。良い感じね。こほん。では、ライト君は部屋の中を見回しました。すると、暖炉の上部には、ショートソードと狩猟弓がかけられています」
「じゃあ、まずは剣を」
「部屋の隅には皮鎧も置かれているわ」
「着替えている暇はない。手遅れになる!」
そう言って、僕は剣を引っ掴んで家の奥へと駆け出した。
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