雨のち晴れ。

結城 碧

第1話 雨宮凛

 雨宮凛あまみやりんは今日も元気だ。


 いつも通り七時にセットされたアラームで、ゆっくりと目を覚ます。私はカーテンの隙間から差し込む日の光に目を細める。

 雨宮凛は恋人と別れたところでなんともないのだ。いつも通り洗面所に向かって、いつも通り歯を磨こうと歯ブラシに手を伸ばす。

「あ」

視線の先には青い歯ブラシがあった。私は何もなかったかのような顔で歯ブラシを手に取り、ゴミ箱へ捨てた。いつも通りだ。何も変わらない、きっと。


 いつも通り歯を磨いて、顔を洗った。そのまま次は台所に向かって、いつも通り朝ごはんの準備をする。トースターにそっとパンを一枚置き、もう一枚取ろうと袋の中に手を入れて動きを止めた。

「あ」

間違えた。違う違う。慌ててパンを戻した私は、インスタントコーヒーを一杯、淹れた。いつも通りだ。これが、いつも通りになっていくのだ。慣れなければ、慣れなければ。


 この狭いマンションには、昨日まで幸せな空気で満たされていたのに。あんなに平和だったのに。

……別に、何ともないけどね。彼がいなくたって私はいつも通りやっていける。


 そう、彼には可愛い可愛い本命がいたのだ。


 雨宮凛は心から晴山はるやまそうの幸せを願っている。

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