第175話 ダニア会談
スリーク平原にてダニア分家の女王クローディアは本家の女王ブリジットらを出迎えた。
「出迎え感謝する。本家を預かるブリジットだ」
そう言うブリジットの姿をクローディアは静かに観察する。
ブリジットはダニアの女の中では平均的な身長だが、それでもクローディアよりかなり背が高い。
しなやかな筋肉が腕や足を
女王は何かと忙しいが、それでも日々の
ダニアの女の中で一番強くあらねばならないのだから当然だ。
ブリジットがそうした
それとは別にクローディアはブリジットの容姿に注目した。
美しい金色の髪は手入れを欠かしていないようで、頭髪そのものが
整った顔立ちは
(ボールドウィンはこの人と愛し合っていたのね……)
そうした考えが頭の中をよぎり、クローディアは胸に
それが
そうした感情を表情に出さず、クローディアはブリジットを案内した。
「この先に議場の天幕を用意してあるわ。十刃会以外の者たちはその近くの谷戸に宴会場を用意したから、そこで休んでちょうだい」
「分かった。世話になる」
ブリジットの声が固いのが分かる。
彼女が分家に対していい思いを持っていないのはクローディアも承知していた。
(当然ね。色々あったもの)
やがて議場となる大きな天幕へ案内されると、ブリジットは仲間たちに宴会場に向かうよう告げ、十刃会と数名の
黒い牛革と羊毛でしつらえた豪華な
そして中央にはブリジットとクローディアが対面で座る一層豪華な
女王の
クローディアはブリジットに
本家と分家、それぞれの
本家の分は本家の
その様子を見つめながらクローディアは事前の十血会との打ち合わせを思い返す。
ボルドの存命をどのタイミングでブリジットに伝えるか。
それは難しい問題だった。
この場にいる分家の誰もが当代のブリジットとは初対面であり、彼女の
分かっているのはブリジットが情夫ボルドに相当入れ込んでいたということだけだ。
ボルドが実は生きていて、分家が
(そこまで激情家には見えないけれど……)
クローディアはその顔に穏やかな笑みをたたえたまま、ブリジットを見つめる。
今、ボルドは宴会場となる谷戸のすぐ真上に位置する
時が来て条件が満ちれば、彼はこのままブリジットに引き渡されることになる。
結局、事前の十血会との打ち合わせでは、ボルド存命の情報は会談二日目となる明日までブリジットに伝えないことになっている。
初日の会談の流れ次第では、ボルドの存在が形勢逆転の切り札になるかもしれないからだ。
だが、クローディアには十血会に隠していることがあった。
クローディアの視線に気付き、ブリジットが彼女と目を合わせる。
ブリジットの静かな瞳がクローディアの目の奥を
この場でこの2人しか知らない秘密の
そのためクローディアは、ボルドのいる
「では記念すべき両家の初めての会談に際してワタシから
そう言うとクローディアは立ち上がり、ブリジット、そして十刃会の1人1人に目礼した。
分家の女王という立場上、本家の者たちに頭を下げるわけにはいかず、これでも精一杯の謝罪だった。
それを受けたブリジットは立ち上がる。
「こちらとしては奥の里の襲撃の一件はすでに謝罪・賠償を受けている。済んだことだ。だがクローディア自らの
そう言うとブリジットは同じくクローディアや十血会の面々に目礼した。
場の
本来であればバーサの
クローディアはブリジットの器を感じて
「亡き同胞への
その話を聞き、ブリジットはわずかに目を細め、クローディアを
「王国と公国の緊張は我らにも伝わって来ている。確かに由々しき事態だな。同盟ということは、物資の優先的な交換や
そう確認するブリジットにクローディアは
「ええ。その通りよ」
「……なるほど。しかしその理屈だと我々本家はそちらと共に王国のために戦わねばならなくなるな。アタシは王国のために兵たちを戦地に送るつもりはないぞ。そして仮に王国が我らを攻めた場合、そちらは我々を守るため王国に剣を向けるのか?」
口調こそ穏やかだが厳然たるブリジットの言葉に再び場の
だがクローディアは余裕の笑みを
「それが聞けて良かった。あなたたち本家に王国の
「なに?」
その話にブリジットは
その様子を見ながらクローディアは
「本気よ。ワタシたちは覚悟を持ってこの会談に
強い意志の込められたクローディアの言葉に議場がシンと静まり返った。
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