悪神魔王の最愛家族

石坂あきと

第一話 邂逅 ①

 出世や名誉というものに執着はないが、こうも堂々と左遷を告げられると、気持ちがなんとう言うか、死んだ。

 原因は何なのだろう。そんな悪いことをしたのだろうか。意識できる範囲で失敗らしい失敗をした覚えがない。もちろん意識外の重大な失点が絶対ないわけではないだろうが、順を追って記憶も辿るとやはり潔白である。


「理解できません。この人事には明確な悪意を感じます」


 と、私はない胸を張り……おい、いまなんつった。

 ええっとなんだったかな、そうだ私は物申したのだ。この辞令が無効であることを切に訴えたのだ。

 派遣の地、そこは辺境である。そう言ってしまうと現地にお住まいの方々に対して大変失礼ではあるが、だってしょうがないじゃないか。私は貧乏ではあるが帝都育ちなのだ。不便な田舎なんて勘弁してくれ。

 向かうにはここ帝都からだと雲まで届くかという山を二つ超え、濁流うなる川を遡上し辿り着くそこ。道中で軽く精神的死を3回はきっと感じるだろう。いや10回は固い。と言うか道中で物理的死ぬまでありそうだ。

 だがこの抗議、訴えは口にする前からから徒労に終わることは知っていた。なぜなら私が勤めているここは一般的な会社、組織とは異なる超絶やばい縦階級社会。

 いわゆる軍属である。

 ならなぜ言うのか。

 言わずにはいられないからだ。

 飛び抜けた美貌というものが私にあれば何かしらの恩恵を受け取ることもできただろうか。わからない。そんな人生を妄想する。


「すでに決定事項」


 それが答えだった。

 舐めんな知っていた。

 意見を求められない。私心を挟ませない。答えは諾、それをしないのならば去らねばならない。

 なら去ればいい。そう思い切れない事情が私にはあった。

 早い話が銭である。

 士官学校というものがある。

 入学と同時に学びながら給料も支給され、学費も免除という特典付きの学校であり卒業生は大学卒業相当として扱われる。

 学べる事は多く、質も高い。

 しかし卒業と同時に学んだ時間と同等の労働の自由が失われる。つまりは軍への強制士官である。いやけして強制ではない、国のために働かないと決め、その意思を行使した翌月の初めにこれまで費やしたおよそ五年分の血税を一括で払わないといけないだけだ。

 無理にも程がある。

「軍属ってのはまったく……」

「何か言ったかな?」

「いえ、何も。それよりも隊長殿」と、上官に質問を試みる。「準備の猶予はいかほどいただけるのでしょうか?」

「5日もあれば事足りるだろう」

「……」

 冗談ではなく、上官が黒を白と言えば白である。つまりそういう事。

「名誉ある神聖国防衛騎士団第11隊20位ルーナ-

 -デルソラ、謹んで拝命いたします」

 そう言うしかない。

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