第3話 秘密の贈り物

 フィリエルのサプライズプレゼントは、ラシュレ公爵家のメイドだった。私は息つく間も無く着替えさせられ髪を結われ、瞬きする間に綺麗に化粧が施されていた。


 鏡に映るのは私……というより、桃色のドレスを着た貴族令嬢だった。


「魔法……でしょうか?」

「フフっ。ただの早業ですわ。公爵家のメイドは凄いのです。――サリア、ありがとう」

「ありがとうございました」


 私も慌ててお礼を述べると、サリアと呼ばれたメイドは朗らかに微笑み礼をし、部屋を出て行った。

 

 改めて鏡に視線を向けると、髪飾りが揺れて輝き目を引かれた。


「フィリエル。ありがとう。この髪飾りって……」

「それは私からの婚約祝いです。ヴェルネル様から贈られたドレスに合うと思いました」

「とても素敵……ありがとう」


 髪飾りには桃色の花に、私の瞳と同じ真紅の小さな宝石が散りばめられていた。

 私は髪飾りなんて一つも持っていない。

 ドレスも持っていない。

 こうして着飾ってパーティーへ参加したこともない。


 妹の仕度をいつも手伝っていたけれど、自分も着たいとは思わなかったし、こんな姿をした自分を想像したこともなかった。


「私、気品と慈愛に満ちた女性に……見えるかしら?」

「えっ? 何故ですか?」

「ヴェルネル様は、そんな女性がお好きらしいから」

「そうですのね。コレットは、こんな風に着飾らなくても、上品で思慮深い素敵な淑女に見えますわ」

「そんなこと……ないわ」


 それは所詮、偽りの私だ。

 家族に認められたくて、淑やかな女性を目指した。

 

 苦手な本もたくさん読んで勉強して、たくさん知識を得た。

 でも女の癖に生意気だと言われるだけだった。

 

 私は妹のように父と同じ金髪に翡翠色の瞳ではなく、母親譲りの飴色の髪と真紅の瞳を持つ。

 キールス家の容姿を引き継いでいない私は、外へ出すのも恥ずかしいと学園にも通わせもらえなかった。


 私に出来ることは使用人がやるような事だけだな、と兄に言われてからは、食事も一人で摂るようになり、妹の身の回りの世話や掃除が日課になった。


 こんな私が、こんな素敵なドレスを着て、婚約なんてしていいのだろうか。


「コレット。顔色が悪いわ」

「私なんかが、婚約者に選ばれて良かったのかしら?」

「勿論よ。ヴェルネル様の言葉を思い出して。前に話してくれたでしょう?」


 ひと月前、私はヴェルネル様に婚約を申し込まれた。この日の事はとても嬉しくて、全てフィリエルに話していた。

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