妹の召使いから解放された私は公爵家の家庭教師になりまして
春乃紅葉@コミック版配信中
第一章 ドアマットから解放されたので、もう絶対に戻りません
第1話 私の兄妹
ずっと自分を偽り続けて生きてきた。
女性らしく淑やかに。
兄より目立たず、妹よりも慎ましく謙虚に。
そんな自分を演じてきた。
そうするように押し付けてきたのは私の家族だ。
でも、いくら努力しても認めてくれる人はいなかった。
「お姉様っ! ブーツの紐がほどけてしまったわ。早く結んでっ」
「ええ。ヒルベルタ」
毎朝、妹の身支度は私が手伝っている。
朝起こすのも、髪を結うのも私。
妹もそれを当たり前だと思っている。
「早くしてっ。学園に遅刻してしまうの。あ、課題なんだけど、終わってますわよね?」
「ええ。庭に咲く花とその――」
「内容はいいわ。お姉様は物好きよね。無駄な知識の宝庫ですもの。私は無駄な知識はいらないわ。――あっ、今日はパーティーね。ドレスの準備をしておいて」
「でも……」
「どうせ暇でしょ。あ、もう行かなきゃ。ちゃんとやっておいてねっ」
ヒルベルタがバタバタと廊下を走り去ると、後ろから声をかけられた。
「コレット。妹の頼みも聞けないのか?」
「お兄様。ですが今日は私の婚約式で……」
「ああ。そうだったか? ヴェルネルも趣味が悪い。新手の嫌がらせか?」
「ヴェルネル様は、そんな方ではございません」
「ふん。まあいい。俺ももう出る。早く剣を用意しろ」
「はい」
兄は乱暴に剣を取り腰に差すと、私を睨み付けた。
「婚約式か。……お前がこの屋敷から出ていく日が近いと思うと、気分が良いな。――今日は俺の部屋の剣や鎧も磨いておけ」
「えっ?」
きっと兄は、私に婚約式の準備をさせたくなくて言っている。
準備が疎かになれば、恥をかくのは私だけではない。
キールス侯爵家にも傷が付くだろう。
それを忘れてしまうほど、兄は私のことが嫌いなのだ。
それとも、婚約式で無様な姿を曝し、婚約を取り消されてしまえば良いと思っているのかもしれない。
「嫌なのか?」
「いえ。お任せください」
私は深々と頭を下げた後、兄の部屋へ足を向けた。
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