第3話
「にゃんにゃー! どこ行っちゃったのー?」
通学路からも少し離れた、狭い路地裏だった。
夕焼け空の下、彼女は一人で猫を探し回る。
数十メートル先には公園もあるが、遊んでいた子供たちは既に帰った後。
「にゃんにゃー! にゃんにゃー!」
彼女は叫びながら、キョロキョロと周囲に目を配っている。その視線は遠くへ向けられており、むしろ近くは見えていなかったらしい。
「あっ!」
突然、自動車が一台、曲がり角から細い道路に侵入。
フラフラと歩く小さな子供の姿は、運転手の視界に入っておらず、気づくのがワンテンポ遅れてしまう。
キーッというブレーキ音に続いて、ドンという鈍い音。撥ね飛ばされた幼女は、短い一生を終えるのだった……。
「つまり……。この子は幽霊……」
呟くと同時に、私の中で、何かがストンと収まる感覚があった。
なるほど、この子が駅前でチラシを配っても、誰も受け取らないわけだ。みんな彼女を無視していたのではなく、そもそも幽霊だから見えていなかったのだ。
そして、私にだけ幼女が見えてしまった理由。それは彼女の言葉通り、私が問題の猫と関係あったからで……。
「やっぱり! おじさんがにゃんにゃーを……!」
私に幼女の記憶が見えたように、向こうもこちらの記憶を垣間見たのだろう。
「酷い! 許せない! にゃんにゃーの
私が猫を殺したと知って、いっそうの怒りを示した。私の首にかけた手の力を、どんどん強めていく。
冗談ではない。幽霊に絞殺されるなんて、そんな馬鹿な話があっていいのだろうか?
理不尽な気持ちで、胸がいっぱいになる。
確かに私は、数日前、庭に入り込んだ小汚い猫を一匹、始末していた。でも相手は人間ではなく、しょせん猫なのだ。
ゴキブリと同じ……とまでは言わないが、ネズミ退治と似たようなものだろう。なぜ猫だけ特別に可愛がるのか?
「ただ不法侵入者を返り討ちにしただけだぞ!」
精一杯の声で叫ぶけれど、幼女の霊は聞き入れてくれない。結果として、これが私の最期の言葉になってしまった。
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