第316話 声

 〜戦闘後〜


「なんだよ優樹の奴、人がせっかく気持ちよくスキル上げをしてる時にさ!」


「ああ〜分かる! 優樹ってちょっと皆のお母さんみたいな所あるよね!


 ラカラに船内で優樹へのグチを呟く。


「だろっ! 優樹は別に俺の母さんじゃないし、スキル上げ中くらい前線にでたって良いと思うんだよな」


「まあ、優樹は兄ちゃんの事を心配して言ってるんだと思うぜ。私は兄ちゃんが強い事を知ってるから前線に出ても信頼してるけどな!」


「さっすがラカラ、話が分かる!」


「へへ〜ん! 兄ちゃんの趣味嗜好はなんとなく分かっているつもりだからな」


 鼻を擦りながら自慢げにそう呟く彼女の笑顔は眩しい。


「そうか、まあラカラにはほんのちょっぴり期待してるからな」


「本のちょっぴりって...、どうせなら大船に乗った気でいてよね!」


「まあ、泥舟よりはましな木の船くらいの期待はしておくよ」


「なにを〜!?」


 ラカラと楽しい時間を過ごした俺は1人夜の海を眺めていた。


「はぁ...優樹の奴、たまにああ言うふうになるんだよな」


 前世でも俺が骨折した時にはもう本当にお前は俺のお母さんかってくらい介護してくれたもんな。


 ギプスが邪魔だから私が食べさせてあげるね! あ〜んして和希! なんて言われた日にはクラス中の笑い者だったんだからな! と言いたい。


 俺がブツクサ文句を言っていると...。


 〈そうだよね。優樹なんて信じられないよね〉


 と謎の声が俺の頭の中にノイズのように話しかけてくる。


「...あっ?」


 〈あの時もそうだったよね? カズ君にベタベタと気持ちわるいくらいひっついてくる癖にカズ君の全ては肯定しない。でも私は違う、私はカズ君の。だから...ね〉


「お前は誰だ!?」


 辺りを見回すが誰もいない。


 〈ふふっ。だいぶ私に近づいてきてくれたね。嬉しいよ♡ だからもっともっと強くなって私に近づいてきて♡〉


 それだけ呟くと声が途切れる。


 俺は頭を押さえながらその場に倒れ込み大きく息を吐いた。


「なんだ今のは...幻聴か?」


 幻聴...。


 そう考えられるとしたらどれだけ楽な事か。


 俺は聞き覚えのある声に困惑しながらも自室へと戻っていくのでした。

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