第193話 戦火の村

 転送が終わると俺は素早く仲間達に指示を出す。


「状況把握!」


 俺の言葉に全員が辺りを見回した。


「和希! ここはカリュート村だよ!」


「何っ!? そんな所まで戻されたってのか!?」


 カリュート村と言えば俺が冒険者登録をした村である。


 つまりクソ王のいるクリスティアーノ王国に近いと言う事だ。


 つまり...。


「いたぞ!! 【弱体術師】だ!!」


 あの時とは違い、俺対策に在中していたであろうクリスティアーノ騎士団が信号弾を打ち出して本隊を呼び出した。


「あの時の恨み! 覚悟!!」


(なんの恨みだよ...。っていうか俺は味方だぞ!? なんでも味方に武器を向けているんだこいつらは...)


 早くもやる気が削がれる。


 こんな奴らの為に命を張るのがバカらしくなってしまうのだ。


 俺がため息を吐きながら戦う姿勢に入ろうとすると...。


「お待ちなさい、クリスティアーノ騎士団の皆様」


 アルシェが声を出し騎士団を制する。


「なんだお前は!?」


 騎士団の威圧に全く動じないアルシェはこう答えた。


「私はエトランゼ王国の姫、アルシェ=エトランゼです。くだらない言い争いは戦争の後にしては如何でしょうか?」


「エトランゼ王国の姫君!? なぜそんな者が【弱体術師】なんぞと...」


 信じられないという顔をしている騎士団の1人がこう呟いた。


「いや...、卑劣な【弱体術師】の事だ。偽物を買い入れてそう言わせているのかもしれんぞ?」


「そうか! なるほど!」


 それで納得している奴もいるので本当にこいつらの頭はおめでたいな。


 そう呟く奴らにアルシェは自信の盾と剣をちらつかせた。


「あれは!? エトランゼ王家の刻印! あの剣を所有していると言う事は本物の姫君だぞ!」


「何!? それは真か!?」


「ああ! 間違いない! あれはエトランゼ王が所有している業物の剣だ。年に一度の祭りで一度だけ民衆もお目にかかれる日があったので見た事があるんだが、間違いなくあんな感じの剣だったぞ」


 エトランゼの姫君の言葉となればクリスティアーノ騎士団といえども無視をする訳にはいかないだろう。


「敵は魔王軍! 【弱体術師】様は勇者の1人。ならば【弱体術師】様は皆様の味方です!」


「し...しかし!」


「しかしもくそもありませんわ! それでも貴方達は騎士なのですか!? 目の前まで魔王軍が迫っていると言うのにそれを放棄する者を私は騎士だとは思いません!」


 小娘1人にいいように言われた騎士達は戦いの産声を上げる。


「そうだな。【弱体術師】! 貴様は後でなぶり殺してやるからな!」


「そうだそうだ!」


 そう言いながら魔王軍が行進してくる音の方に向かう騎士団達。


 奴らの背が見えなくなった時に俺は「助かった」とアルシェに呟く。


「任せてください。あのような輩が出てきた場合には私の名前を出せばいいのです。あのくらいの雑兵ならば父様の権力でどうにでもなってしまいますわ」


 黒い笑みを見せる彼女を見て早くも俺風に染まってきたなと笑う俺なのでした。

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