第125話 祝杯③

「実は私はボーヤ、あんたが気に入ったんだ」


 いきなりそう耳元で囁かれたので思わず「んっ!?」と変な声が出る。


「それはどう言う意味だ?」


「ああ、そりゃあもう男と女の関係としてあんたの心を盗みたいと思っている」


 いきなり大胆な発言をしてくる彼女だったが、正直言って俺の何処に惚れたのか全く分からない。


「本気か? お前酒飲みすぎて頭がおかしくなってるんじゃないか?」


「ボーヤ! 本気になっている女性をからかうもんじゃないよ!」


 突然マジトーンの声質に俺は思わず黙ってしまう。


 だってさ、別にこいつとそう言うシーン全くなかったじゃん。


 会話だって殆どした事ないしな。


 彼女はグラスに入った酒を飲み干すと俺にこう呟いた。


「最初見た時はただのガキがイキってるだけだと私も思ったさ。でもあんたはあのアンデットの大群に一歩も引かずに戦線を維持し続けた。しまいにはデスナイトも倒しちまったあんたの姿が私には凄く眩しく見えたのさ」


「...たまたまだろう。それにデスナイトを倒したのは俺じゃない。俺は最弱の勇者【弱体術師】でデバフしか使えないからな」


 そう、デスナイトを倒したのはシュナだ。


 なんならシュナを紹介してやろうか? あいつも男で港町アルセージの時期領主だから悪い男ではないはずだ。


 まあ、シュナのやつがなんていうか分からないがな。


 俺の言葉を聞いた彼女は続けてこう呟いた。


「もしそうならよりここで盗賊の首領をやっている私よりも凄いよボーヤは...。自分がデバフしか使えないと分かって最前線で戦っているんだからさ」


「そうか? なんだかんだ言ってお前がここの首領として認められているのは部下の声質や表情で分かっている。女でそこまでできる気量を持ったお前の方が俺は凄いと思うがな」


 そう、俺はただ【弱体術師】としての力を振るっているに過ぎない。


 勿論多少の努力はしてきたが、【弱体術師】の力は元からこの世界にいるシュナやラカラのように自分の力で得た力ではないのだ。


 そこがちょっとモヤモヤするんだよな。


 どんだけ頑張っても所詮【弱体術師】の力を強化してるだけだもんな俺は。


 腹を満たし3杯目のグレープジュースを飲んだ俺は大いに満足したのだが、彼女の恋心には答えられなさそうだ。

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