第14話

「パワードスーツか? 誰かいる?」


 現場に近づくと俺は疑問を口にした。

そのひとは、人間の力では持ち上げられない大きさの瓦礫をどかしている。


カインドマテリアル製のパワードスーツを来ていることは明らかだ。

アメコミ映画に登場する怪力男か、ヒーローみたいな様子だ。だが、


「これは!? 本研究所のパワードスーツではありません!」


「さっきの魔改造重機に乗ってた者じゃ!」


オペレーター上坂さんと博士が信じられないと声を上げた。

俺はとっさに身構える。


するとパワードスーツは、

ダルマと俺が近づいたのに気がついたみたいだ。

ダルマをちらりと見た。

カッチュウ越しではあるが俺と目が合った気がする。


「やっぱり俺と同じくらいの男子だ」


パワードスーツ越しにも分かる自信なさげな丸い背中と肩、

大きな物をどう持っていいか分からず力任せな動きから、

ようやく相手のことが分かった俺はつぶやいた。


俺が言うのもなんだが、

あの男子は力仕事に慣れていない感がある。


それでも必死に人助けをしようとしているように俺には見えた。

根拠はないんだが、さっきアメコミ映画なんて例えたこともあって、

俺にはどうしても悪いヤツに見えない。


俺は思わず構えを解いて、肩の力を抜く。


「博士、ケンカじゃなくて救助活動を優先します」


「ああ。だがなにをするか分からない。

ヤサシくんは慎重に救助に当たって欲しい。

救助ができればパワードスーツの彼は逃してもよい。

上坂くん、特殊警察に連絡を」


代わりに博士は緊張感を持った指示を出した。

俺は改めて体に力を入れる。

相手と闘うのではなく、人助けをするんだ。


俺はゆっくりとダルマを歩かせて手を伸ばした。

パワードスーツの男子は捕まえに来たのかと思ったのか、

いつでも動けるように身構える。


「こちらは石丸カインドマテリアル研究所のダルマだ。

救助活動を手伝いに来た」


外部音声で俺はパワードスーツの男子と、

要救助者の両方に伝えた。


言ったあとに、ダルマの手を伸ばし、

パワードスーツでも手こずりそうな大きな瓦礫をつかむ。

俺は生体センサーの教えてくれる情報を確認しながら慎重に動かす。


するとその奥から、身をかがめていたひとたちが見えた。

驚きで口を丸くしている。


「助けに来ました」


パワードスーツの男子は要救助者に声をかけて、

救助隊と同じように手を伸ばした。


まさか街を壊した本人だとは全く思っていないひとたちは、

ありがたそうに手を取る。


「カインドマテリアルって本当に温かいんだな。

それにダルマさんまで助けに来てくれて、ありがたい」


助けられたひとたちは、

まるで大仏に拝むように手を合わせた。

するとパワードスーツの男子はこちらをじっと見つめてくる。


そうか。救助したひとをどうすればいいのか分からないのか。

そう思ってダルマの指を動かしながら言う。


「ここを右に曲がった先に、消防車や救急車がいます。

見たところ大きなケガは無いようですが、

一応診てもらってください」


俺の案内を聞いて、助けられたひとたちは素直にうなずいた。

早足でダルマの指差す方に向かう。


俺は救助者さんたちが十分に離れるまで見送った。


それからパワードスーツの男子にダルマの顔を向けた。

あちらも逃げずに顔を向ける。

おかげででかいヘッドセット越しに人相が分かってくる。


やや弱々しい口元だ。

偏見かも知れないが、悪いことをする顔じゃないと俺は思う。


むしろなにかあったら動けずにいて、

困るタイプの男子の顔なんじゃないかって言える。


逆に言えば、こういうタイプは何も起こらないように備えて、

工夫する賢いヤツだ。もちろんケンカは弱いはず。


パワードスーツを着ているとはいえ、

ダルマと俺で強引にとっ捕まえることも考える。


「ヤサシくん、特殊警察がもう少しで到着する。

無理に確保せず説得や時間稼ぎを頼む」


博士はこっそりと俺に指示を出した。

俺は博士への返事にもなるよう、

パワードスーツの男子に質問をする。


「どうして人助けをしていた?

街を壊してでもカインドマテリアルを手に入れたいのなら、

犠牲のことは考えない。

俺はそう思ってたんだが、違うのか?」


問いかけを聞いた男子は、

苦虫をかみ殺すような口を見せた。

まるで答えたくても答えられない理由があるような顔、

またはこの行動自体が本心ではないような顔に見える。


「……人助けは義務だから。

しなくちゃいけないことだ」


少ししてからパワードスーツの男子は重そうな口を開いた。


やっぱり、そう答えなければならないみたいな感じだ。

破壊活動も含めて誰かに無理やりさせられてる?

裏があるのか? そう思って質問を続ける。


「偉そうな言い方をしちまうが、立派な考えだと俺は思う。

だったらなおさらあんなものを持ち出して、

街をこんなにした理由が俺には分からない」


さらに相手の気持ちが気になった俺は、

ダルマを一歩前に出して質問を続けた。

パワードスーツの男子は合わせて後ずさり。


「ヤサシくん、理由は僕も気になるが時間稼ぎでいい」


博士は焦った声で言った。

だが博士も気になるって言っちゃってるし、

俺だって気になる。


「カインドマテリアル製のパワードスーツを使えるってことは、

それだけの素質があるってことだ。

だったら、それを今みたいに人助けに――」


と言っているとパワードスーツの男子はすごいスピードで逃げ出した。

俺も思わず走り出そうとしたが、


「ダルマで全力疾走すると大変なことになる!

あとは特殊警察に任せるんじゃ!」


「くっ!」

博士に止められて動き出そうとする衝動をこらえた。

足元にあった瓦礫が割れる。


「対象ロスト。

想定以上のスピードで移動していました」


「だめじゃったか」


オペレーター上坂さんの報告を聞いて、

博士は悔しそうにつぶやいた。

俺はやっちまったので、視線を落として謝る。


「ごめんなさい。俺がもっと冷静に話していれば」


「いいや。カインドマテリアル製パワードスーツを

ああまで使えるのであれば、

ダルマの大きさに任せて捕まえようとしても、

特殊警察が到着して取り囲んでいても逃げられたじゃろう。


それにヤサシくんの疑問はもっともじゃ。

もし僕がヤサシくんと同じ場所にいても同じことをした。


気にすることはない。

あとは特殊警察にまかせるんじゃ」


「……分かりました。

次の場所を教えて下さい」


俺は夜なのにまだまだ赤い街に目を向け直した。

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