もしも君がある日突然消えたとしても

戯 一樹

プロローグ




「私のこと、絶対忘れないでね……」

 涙で濡れた彼女の頬が、僕の胸元に触れる。

 そこには、ちゃんと彼女がいて。

 確かに彼女の温もりがあって。

 僕の腕の中にいる彼女がじきに消えてしまうかもしれないなんて、とてもじゃないけど信じられなかった。

「忘れないよ。絶対、死んでも忘れたりなんてしない……!」

 その震える小さな肩を抱きしめて、僕は頑なに告げる。

 うん、と彼女が弱々しく頷く。普段の彼女らしからぬ覇気のない反応に、僕は胸を締め付けられるような思いに駆られて、さらに強く抱きしめた。

 神様はいつだって残酷だ。どんな人間だろうと平等に不幸を与えて、ある日突然平穏な日常をぶち壊す。そこに例外はなく、逃れる術なんて僕ら人間にはない。

 それでも、僕は抗う。

 たとえ彼女が世界中の人間に忘れられて、やがて消えゆく運命にあるのだとしても。

 その運命を、僕は否定する。

 力づくでも捻じ曲げてやる。

 それがどれだけ無謀なことだとしても。


 必ず、彼女を救ってみせる。


 

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