第3話
「あらあらまあまあ~。一体どんな子を連れて来るのかしらって、今までずっとドキドキしながら待っていたけれど、まさか小日向さんだったなんて~!」
場所は打って変わって生徒相談室。その中でのやり取りだった。
紺野先生は椅子に並んで座る俺と小日向を正面に見据えながら、
「先生、すごく安心したわ~。ひょっとしたらお友達を作れないままここに来るんじゃないかって、今までずっと心配していたから~。でも相手が小日向さんみたいなお友達の多い子なら、ひとまず安心ね~」
と、心底嬉しそうに表情を綻ばせた。
「それにしても、望月くんもなかなか抜け目ないわね~。小日向さん、すごく綺麗で性格も明るいから、密かに慕っている生徒も多いのよ~? 毎日のように男の子から告白されるって噂もあるくらいだし~」
「ぽぽちゃん、ちょっと話盛り過ぎだよ~。あたし、そこまで人気ないよ? 告白は確かによくされるけど、さすがに毎日ってわけじゃないし」
「あら~。相変わらず謙虚ね~。けど、そういったところがまた人気の秘密なんでしょうね~」
「え~? そうかな~?」
紺野先生の度重なる賛美に、面映ゆげに前髪をいじる小日向。内心褒められてすごく嬉しかったのか、口調が紺野先生っぽくなってしまっている。なんだかテレビのスロー再生でも見ているかのような気分だ。
それはさておき、小日向のおかげもあって先生の反応は上々だ。さすがは鳴海高校一の美少女にして最高ランクのリア充なだけのことはある。小日向みたいな友達がいるとわかれば、今後は先生も俺の交友関係に対してとやかく言いやしないだろう。もっとも、期間限定の友達ではあるが。
いや~、しかしここまで順調に進んでくれるとは。こっちに貸しがあったとは言え、ダメ元で頼んでみるもんだなあ。まあその代わり、小日向には面倒極まりないことを頼む流れになってしまったわけではあるが。友達になってくれって頼んだ時も、ぽかーんとあっけに取られていたし。
それでもちゃんと事情を把握した上で、こっちの頼みを快諾してくれたのだから、小日向って本当に良い奴だよなあ。ギャルにも色んな奴がいるもんだ。
だからと言ってギャルという存在を見直す気になったかと言えば、そんなことは一切ないけど。今までさんざん色んなギャルたちから陰口を叩かれてきた身なので、ちょっとギャルに優しくされたくらいでそう簡単に評価が変わるほど甘くはないのである。ちなみに一番ひどかった陰口は『仮に今死んでも、だれにも気付かれないまま腐りそうなほど存在感ないよね(笑)』です。
「けど不思議ね~。二人はどうやってお友達になったの~?」
おっと。やっぱり来たかその質問。お互い接点もなかったし、見るからに両極端なタイプなので、絶対疑問を持たれるだろうなとは思っていたのだ。
だがこっちも抜かりはねえ! その質問に対する回答はすでに準備済みだぜ!
「別に大したきっかけはないですよ? ただこの間、たまたま廊下で小日向さんの落し物を拾ってあげた時になんとなく話が弾みまして。それで仲良くなったんです」
「あら~、なんだか意外ね~。なにか共通の趣味でもあったの~?」
「はい。俺も小日向さんも読書が趣味なんですが、偶然にも同じ本を愛読していたことがわかりまして。それからお互いに話しかけるようになったんです」
「そうそう! あたしも望月くんが同じ本を読んでるって聞いた時はびっくりしたよ~」
絶妙な合いの手を打ってくれる小日向。ここまで来る道中、事前に打ち合わせしておいて正解だったぜ。
ここで肝なのが、別段嘘はなにも言っていない点にある。ただ読書と言っても主に漫画で、しかも愛読しているというのが某少年誌の毎回ToLOVEるばかり起こるラブコメの方ではあるのだが。
しかしまさか、小日向まであの漫画を愛読していたとは。中身は完全に男性向けのはずなのに、小日向みたいな現役JKまで虜にさせるとか、矢吹先生はほんま神やでぇ。
「あらあら~。本当に仲良しさんなのね~。先生、なんだか自分のことのように嬉しいわ~」
俺と小日向のやり取りに、紺野先生が言葉通り目元を緩めて微笑を浮かべる。
いいぞいいぞ。完全に俺達の仲を信用しきっている。
これなら親に連絡されることもなく、このまま無事解散という流れに──
「それじゃあ今後も、小日向さんとの友好関係が続いているっていう証拠を先生に見せに来てね~」
……はい? なんどすて?
「え? え? い、今のって一体どういう……?」
言っている意味がわからず、狼狽しながら聞き返した俺の質問に、
「どうもこうも、そのままの意味よ~。だって今は良くても、この先友達でなくなっちゃう可能性だってあるでしょ~? そうなったら望月くん、また一人ぼっちになっちゃうじゃない~。先生、そんなの悲しいわ~」
あれれー。おかしいぞー?
似たようなやり取り、前にもしたことがあるぞー?
「いやいやいや! なんでそういうことになっちゃうんですか! こうして友達を連れて来るだけよかったはずじゃないんですか!?」
「確かに連れて来るようには言ったけど、それで終わりとは言ってないでしょ~? あくまでも望月くんに友達を作らせるためのものなんだから。それでまたお友達のいない状態に戻っちゃったら全然意味がないじゃない~」
それはそうだけども! そうかもしれないけども!
でも、こんなの詐欺みたいなもんじゃないか! ひどい! あんまりだ!
いや、俺が言えたセリフじゃないけどもさあ!
「それに望月くん、まだ小日向さんしかお友達がいないんでしょ~? 先生はね、望月くんには小日向さん以外にも交友関係を広げてほしいと思っているの~。お友達がいるのは本当に素晴らしいことなんだって、実感してほしいの~」
「もう十分、小日向さんで実感しているんですが……」
嘘だけどね。これっぽっちもそんなこと思ってないけどね。
「あら~、それは良いことね~。でも先生、望月くんには今よりもっともっと友達がいることの素晴らしさを実感してほしいの~。世界にはまだまだ素敵なことで溢れているんだって感動してほしいの~。ほら、想像しただけで胸がいっぱいになってこない~?」
ええ、胸焼けしそうなほどいっぱいいっぱいです。ぶっちゃけ反吐が出そうです。
つーか、どこまでお節介なんだこの教師は! しかも思考回路が完全にメルヘンで全然話にならないし!
くそっ。想定外の事態だ。どうにか親への連絡は防げたものの、紺野先生の言う証拠とやらを今後も継続的に提示しないと大変なことになる。
だが、こんなのどうすりゃいいんだ? 小日向とはあくまでも今回だけの関係だし、だいたい向こうがそこまで協力する理由もない。
こんちきしょう! これじゃあ結局振り出しに戻っただけじゃねえか!
いや振り出しどころか、さらに条件が悪化しちゃってるし!
小日向以外の友達を作れとか、一体全体どういうことなんだってばよ!?
しかも今回みたいな今日限りの友達ではなく、この先もずっと俺の友達として演じてくれそうな相手を!? それもこの先何人もか!?
あははははは! 無理だね無理無理! だれが好き好んでそんな面倒なことを引き受けてくれるって言うんだ! ただでさえ知り合いが全然いないぼっちだっつーのに!
ああもう! どこかに無償で俺の友達を演じてくれる、都合の良い奴はいないかなあ!
もしくは未来の秘密道具よろしく、友達製造機みたいな便利な道具が、どこか格安で売っていたりしないかなあ!
「そんなに不安そうな顔しないの望月くん~。大丈夫、望月くんには小日向さんっていう頼りになる友達がいるんだから~。ねえ、小日向さん~?」
「えっ? あ、あたしですか?」
いきなり水を向けられ、戸惑いがちに自身を指差す小日向。
「もちろんよ~。小日向さんなら望月くんみたいなコミュニケーションが苦手な子でも、きっとすぐに友達を作ってあげられるわ~。だってクラスの人気者だもの~」
「そ、それはどうかな~? あたし、そこまで自信はないよ? それに望月くんって、友達を百人作ることよりも、一生涯親友でいられるような人を作りたいタイプじゃないのかな~?」
おお! ナイスフォローだ小日向! 決してベストとは言えないが、このままノルマが増えるよりは断然マシだ。ここは俺も全力で乗っかるしかあるまいて!
「そうそう! まったくもってその通り! いやもうほんと、他の友達なんて今は全然考えられないわ~。小日向さんとの親交を深めることしか頭にないわ~」
「あら、そう~? それならあまり無理強いはできないわね~」
と紺野先生は少し残念そうに苦笑を浮かべつつ、
「じゃあお友達を増やす件は、いったん保留ということになるわね~」
よしゃああああ! なんとか最悪の事態を脱するのに成功したぞおおおお!
あとは面倒な定期連絡さえ無くなれば、万事解決。ハッピーエンドはすぐ目の前だ!
「わかったわ~。それじゃあひとまず、小日向さんとの交遊関係が続いているかどうかだけ定期的に連絡してちょうだいね~。日数で言うと──」
「あのー、それなんですけど……」
紺野先生の言葉を遮える形で、俺はおずおずと挙手しながら問いを投げる。
「連絡って一体なにをすれば? 証拠を見せるとか言っていましたけど、具体的にはどういう……?」
「別に難しいことは考えなくていいわ~。どこか小日向さんと遊びに行った写真でも見せてくれたら十分よ~」
……簡単に言ってくれるが、それってけっこう難易度高いぞ?
個人的に面倒この上ないというのもあるが、これまでの人生で女子と二人きりで遊びに行ったことがないから、一体なにをすればいいかわからないし、なにより知り合いに見られでもしたら絶対に誤解を招きそうだ。
なにより、こんな冴えない男の恋人に思われるなんて、小日向からしてみれば死んでも嫌に違いない。俺としても野郎どもに恨みを買いそうで、微塵も気が進まない。
ま、あくまでも先生の言う通りにするならという話ではあるが。
そんな面倒な真似、だれがするかっつーの。
「それは個人的にどうかと思うんですが。ほら、俺らはあくまでも友達なんで、あまり二人きりで遊んでいるところをだれかに見られるのはどうかと思うんですよ。周りに誤解されかねないし、俺みたいな地味な奴が小日向さんみたいな人気者と付き合っていると思われたら、絶対反感を買っちゃいますよ?」
さっき思ったことをそのまま口にして伝えてみる俺。
紺野先生としても、生徒間でのいざこざはできるだけ避けたいはずだ。となれば、小日向と二人で遊びに行けとは言えなくなるに違いない。
そう目論んでの切り出しだったのだが、対する先生の反応は想像よりもあっけらかんとしたもので、
「別に先生、二人きりで遊びに行ってほしいとまでは言ってないわよ~? 誤解されたくないって言うのなら、他のお友達を誘ってくれても全然構わないし~。ほら、みんなで遊んだ方がずっと楽しそうじゃない~」
うわあ……。出たよ、陽キャどもがよく言いそうなセリフが……。
あんたら陽キャは少人数よりみんなで騒いだ方が楽しいとか言うけどさあ、あいにくと孤高をこよなく愛する俺にはまるで理解できない言葉だ。
たとえば「楽しいことは一人より二人でいる方が二倍にできる。悲しいことは二人で分け合けば半分にできる」っていう、漫画やドラマでよく聞くあの謎理論。あれも俺に言わせれば、物事の表面しか捉えていないクソみたいな標語だ。
ぜひこの言葉を発した奴に言ってやりたい。
せっかくの楽しいひと時を、友人の些細な言動でぶち壊しにされた経験が一度もないと本当に言い切れるのか?
悲しみに暮れている最中、友人から心ない対応をされてさらに傷心した経験が一度もないと本当に言い切れるのか?
もしどれもそんな経験はないと答えた奴がいたとしたら、そいつは今まで友達が一人としていなかったか、もしくは単に頭がお花畑の住人かのどちらかだ。
気の合う奴だからって、ずっと一緒にいたら不満の一つでも抱くものだ。家族なんてその典型例である。
別個体の人間である以上、お互いなにもかも都合よく動けるはずがないのだから。
付け加えて言うならば、先生は肝心のことを失念している。
仮に俺みたいなぼっちが小日向率いるリア充グループに囲まれたらどうなってしまうかなんて、火を見るよりも明らかだ。確実に周囲から浮きまくって、心底居心地の悪い気分を味わうに決まっている。まったく、ぼっちをなにもわかっちゃいない。
だがまあ、先生も悪気があって言っているわけじゃないんだよなあ。むしろ至って善意で言っているというあたりがまた厄介だ。
なんにせよ、できるだけあからさまに拒絶するのでなく、どうにか穏便な方法でこの問題を回避するしかない。
「いやでも先生。俺、人見知りするタイプなんで、あまり知らない人を連れて来られても困るんですが……」
「あら~。それじゃあみんなと遊べないわね~。けどそれじゃあ、二人で遊ぶしかなくなっちゃうし~……」
「そうそう! そうなんですよ! だから紺野先生に証拠を見せるというのは、ちょっと無理だと思うんですよね~」
ここぞとばかりに自分に有利な方へと話を進める俺。
よし! 完全にこっちの方へと流れが来ている。このまま押し切れば、この話も打ち切りになるはず!
──なんて油断していたのが運の尽きだったのか、次に発した先生の疑問に、俺は不覚にも言葉を詰まらせることとなる。
「あれ~? でもこれって少し変じゃない~? だったら二人は、いつどこで話をしているの~? 二人っきりでいるところを見られたくないって言うのなら、学校の中ではなかなか話せないはずよね~?」
「──っ!? そ、それは……」
し、しまったああああああああああ!
正直、そこまで考えていなかったああああああああああ!
「たぶん普段はスマートフォンとかで話しているんでしょうけど、それってあんまり友達っぽくないわよね~。昔風に言うメル友みたいな関係だったりするの~?」
「そ、そうなのぽぽちゃん! あたしと望月くんってスマホだけでやり取りすることの方が多いの。だから直接会話することは少ないんだよ~」
あからさまに狼狽える俺を見かねてか、慌てて先生の疑問に答える小日向。
あっ、まずい! その言い方だと──
「あらまあ~。やっぱりそうだったのね~。でもそれだと、結局望月くんって一人ぼっちでいることが多いのかしら~?」
「えっ? えーっと……」
紺野先生の鋭い問いかけに、小日向が助けを求めるようにおそるおそる俺へと視線を向ける。
くっ。やはりこうなってしまったか。事前に止められたらよかったのだが、動揺するあまり、とっさに言葉が出なかった。
仕方がない。あまり肯定したくはないが、しかし変に否定したところで信じてもらえるとも思えない。ここは首肯するしかないか……。
「……まあ、そうっすね。小日向さんとは基本スマホでしかやり取りをしていないので、基本的には一人でいることが多いです」
ぶっちゃけお互いの連絡先なんて知らないので、スマホを確認されたら一発でアウトなのだが、まあプライバシーに関わる話だし、そこまで踏み込んだ真似はしないだろう。
「え~? それじゃあ以前と大して変わらないわあ~。あくまでも先生は、望月くんにお友達に囲まれた素晴らしい学校生活を送ってほしいのに~」
うがあああああ! せっかくいい感じに話が終わりそうだったのに、また蒸し返されたあああああああ! 身から出た錆だけどおおおおおおおおおおお!
いやまだだ! まだ諦めてなるものか!
是が非でも、この不利な状況をひっくり返してやる!
「でも先生! 友達ができたこと自体は評価してくださいよ! 俺、めちゃくちゃ頑張ったんですから!」
「そうね~。確かにそれは褒めるべきところではあるわね~。だからと言ってこのままというわけにはいかないし~」
どうしようかしら~、となにかを思案するように瞑目する紺野先生。
頼む! 頼むからこれ以上面倒なことは言うなよ! もうこっちは冷や汗が止まらないわ胃がきりきりして痛いわで色々限界なんだよおおおおおおお!
そんな祈るような気持ちで先生の反応を待っていると、
「……そうね~。ケータイだけのやり取りとはいえ、せっかくできたお友達なんだし、これからもっと仲を深めてみるっていうのはどうかしら~? それこそ、二人で外に遊びに行けるくらいに~」
「いやですから、俺と二人でいたら誤解されかねないってさっきから何度も──」
「大丈夫大丈夫~。先生にいい考えがあるから~」
「「いい考え?」」
思わず声を揃えてしまった俺と小日向に、紺野先生は屈託ない笑顔を浮かべて、
「ようは、二人とわからないように変装したらいいのよ~!」
……………………は?
おいおい……。またなにかとんでもないことを言い出したぞこの人。発言が突飛過ぎて、一瞬なにを言われたたのかすら理解できんかったわ。
どうやらそれは小日向も同じだったようで、ちらっと横を窺ってみると、あっけに取られたように口をぽかんと開けて硬直していた。気持ちは痛いほどよくわかるぞ小日向。
「そうね~。先生のお薦めとしては、ガテン系とかいいと思うわ~。ほら、二人ともそういったエネルギッシュなイメージはないでしょ~? 望月くんは見た目からして大人しい感じだし~。小日向さんはすごくオシャレだから、ネイルサロンとかで働いていそうだし~。みんなの印象から外れて逆に気付かれにくいと思うの~。それで~」
「ちょ、待った待った! 待ってくださいよ先生!」
とんとん拍子に話を進める紺野先生に、俺は慌てて手を出してストップを掛けた。あっぶね。面喰らってる場合じゃなかったわ!
「急に変装とかって言われても……。俺、都合よくそんな服持ってないですし、服を新しく買い揃えるほど金銭的余裕もないんですけど……」
「あ、あたしも! お小遣いなんて化粧品とか友達との付き合いとかですぐ消えちゃうから、あんまり無駄なことにお金を使いたくはないかなー……」
「大丈夫よ~。先生、趣味でよくお洋服作ってるから~。ガテン系だって問題なく作れちゃうわ~」
作れちゃうのかよ! いやそのスキルだけはすごいと思うけど、今この場に限って言えば迷惑でしかねえ! せっかく小日向も俺に合わせて遠回しに断ってくれたのに!(単に本音だけを言っただけという線もあるが)
「……あの、先生? そこまでして証拠とやらを見せる必要があるんですか? こうして小日向さんを友達として連れて来ただけじゃダメなんですか?」
「さっきも言ったけれど、今後も友達として継続していけるかどうかなんてわからないでしょ~?」
「ちゃんとその時は言いますって! 信じてくださいよ先生! それとも、俺の言うことなんか信じられないとでも言うんですか!?」
「うん」
「あっさり頷かれた!?」
しかも躊躇すらなかった!
「だって望月くん、一度だけ先生を騙したことあったでしょ~? 前に二年生だけで校庭内の草むしりをした時、望月くんだけ具合が悪いからって保健室に行ったことがあったわよね~? あの時望月くん、ベッドの上でなにをしていたのかな~?」
「おっふ……」
痛いところを突かれ、思わず変な声が漏れてしまった。
……ああ、あの時の話ね。それならよく覚えている。できることならさっさと忘れてしまいたい記憶だけどな。
先生に仮病がバレて、こっぴどく叱られた記憶なんて。
いやー、まさかベッドの上で寝ながらスマホゲームで遊んでいたところを紺野先生に見られてしまうとはなー。なんの音沙汰もなく俺の様子を見に保健室に来たもんだから、あの時はほんと血の気が引いたわ……。
だが、こっちにもやむにやまれない事情があったのだ。好きな者同士でグループに分かれて作業しろとか先生から指示を受けたわけなのだが、ソロプレイ派の俺からしたら苦行以外のなにものでもない。なんなら拷問と言い換えても差し支えないくらいだ。
よく考えてもみてほしい。ぼっちの俺に好きな者同士でグループを組めとか一体なんの冗談なのだ。言わずもがな、俺だけあぶれてしまうに決まっている。
そうなると当然のごとくどこかのグループの中にほぼ強制的に入らされてしまうわけで。仲の良いグループの中で、俺という異物が混入してしまうわけで。確実に針の筵状態になるわけで……。
だからお互いのためにも、あえて自ら戦線離脱を図ったのだが、まさかその時の失敗がこんな形で尾を引いてしまうだなんて、本当に想定外だ。悪いことはするもんじゃないな……。
「質問は以上かしら~? それじゃあまた一週間後くらいにここに集まることにしましょうか~? もちろんその時はちゃんと写真を用意してね~」
「はい……」
もはや今の俺に、反論の余地などあろうはずもなかった。
こうして。
めちゃくちゃ不本意ながらも、俺と小日向は偽りの友人関係を継続しなければならない羽目になってしまった。
しかも、小日向との写真を撮らなければならないという難題付きで。
ちなみに余談ではあるが、先生から変装用の服を借りるという案は丁重にお断りしておきました。
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