モノノケトラブル!
戯 一樹
プロローグ
「ひかり! こっちだこっち! ちんたらしてんじゃねえ!」
「んもう! 待ってよタマ!」
休日の午後三時過ぎ。日もまだまだ高い空の下、とある路地を十歳くらいの女の子と招き猫のような謎の生き物が、一心不乱になって駆け抜けていた。
「もうすぐだ! この先に妖怪がいるぞ、ひかり!」
「だから待っててば! わたし、そんなに早く走れない~っ」
どんどん距離を離して先行するタマに、ひかりは息を乱しながら必死に追いかける。
幸い、見失う前にタマがとある公園に入っていったので、ひかりはへろへろになりながらも、どうにか目的地へと到着することができた。
すると、そこには……。
「けけけけけ! そぉら! ババの砂を存分にくらうがいいっ!」
「うわーっ! なんなんだよこのばあちゃん!」
「きゃあ! やめて! 砂をかけないでぇ~!」
目の前に広がる光景を見て、ひかりは「うわ~」と思わず顔をしかめた。
白い着物のおばあさんが、幼い子どもたちに容赦なく砂をかけている。それだけ見れば完全に嫌がらせ以外のなにものでもないのだが、あいにくと、その蛮行を止められそうな大人は、近くにだれ一人としていなかった。
「おそかったじゃねぇか、ひかり。さあ、今すぐあいつを封印するぞ!」
「ふえっ? ふ、封印って、あんなのどうやって近寄ればいいの? そもそも、あれは一体なんなの⁉」
「あれは砂かけババアっていう、相手に砂をかけて嫌がらせをする妖怪だ! どう封印すればいいかは、あー、えーっとだな…………こ、根性でどうにしかして切りぬけ!」
「なにそれ~っ! 名前だけわかってもどうしようもないじゃない! ほんと、タマって全然役に立たないんだから!」
「んだとゴラァ! オレさまのおかげで、こうして砂かけババアを発見できたんじゃねぇか!」
「見つけられても倒し方がわからなかったら、どっちみちなにもできないじゃん! ああ
天に祈るように両手を組み合わせて、ひかりはここにはまだ来ていない仲間の助けを求める。
そうこうしている内にも、砂かけババアは手に持っている袋からじゃんじゃん子どもたちに砂を投げつけていく。大きなケガの心配はないが、あのままだと砂が目に入ってしまう危険性もあるし、なにより服が汚れてしまう。早くなんとかしないと被害が広まる一方だ。
「ほれ見ろ。おまえが駄々をこねている内に、ババアがあんなちっちゃい子にまで砂をかけようとしてんぞ。ここに年長者はひかりしかいないんだから、おまえがなんとかするしかないだろ!」
「年長者って……。わたし、まだ十歳なんだけど……」
「こまけぇこたあいいんだよ! どのみちお前しか封印できねえんだから、今ここでなんとかするしかねえんだっつーの!」
「うっ。それはまあ、そうかもしれないけども……」
「ほれ早く! 早急に! 迅速に! 可及的すみやかに封印してこいっ!」
「ああもう! わかった! わかりました! やればいいんでしょやればっ! はあ、どうしてこんな面倒なことになっちゃったんだろ……」
ため息混じりに不満をもらしながら、ひかりはスカートのポケットから『物怪帳』と表紙に書かれている、一冊の古ぼけた書物を取り出す。
どうしてこんなことになってしまったのか。
それは、ひかりがモノノケ帳と呼ばれる封印の書を、うっかり解き放ってしまったことから話は始まる──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます