いつからオレが味方だと錯覚していた?〜勇者パーティーに紛れ込んだ魔族ですが、勇者たちが強運すぎて倒せません〜

戯 一樹

プロローグ


 そこは魔王城──それも玉座の間と呼ばれる、不気味なほど薄暗い大広間の中だった。

 その最奥、仰々しいまでに豪華絢爛に装飾された玉座にて、全身を常闇のように影で覆われた大柄の人物が、唯一表情を窺わせる眼光を凄ませて、こう問うた。

「……つまり、今回も勇者達の討伐に失敗したと?」

「も、申しわけありません! 魔王様っ!」

 巨漢──もとい魔王と呼ばれた人物の物々しい言葉に、その正面で傅く悪魔のような姿をした異業の者が、恐怖に震えながら頭を下げた。

「一体これで何度目だと思っているのだ。たったの三人……それも小娘相手に手こずるなど、それでも誇り高き魔族か」

「お、恐れながら魔王様! 奴らには天運に恵まれているとしか言いようのない力が秘められておりまして。これまでも何度か不意討ちを狙ったりもしたのですが、毎回予期せぬハプニングに見舞われるばかりで、もはや打つ手が──」

「もうよい。もはや貴様の声を耳にするだけで腸が煮えくり返るわ。我の気が変わらぬ内にさっさと去ね」

「ひぃ! し、失礼しましたあっ!」

 魔王の威圧に、異業の者は心底怯えた形相で脱兎の如く慌てて玉座の間を飛び出して行った。

「……おのれ勇者め。実に忌々しい」

 ややあって、異業の者が完全に見えなくなったあと、吐き捨てるように悪態をつく魔王。声にも明らかに苛立ちが混じっており、今にも怒りが爆発しそうな様相だった。


「魔王様」


 と、その時。

 玉座から少し離れた位置……石柱の陰から白髪頭に鬼のような角を生やした少年がスッと姿を現し、ニヤリと邪悪な微笑を浮かべながら魔王の正面に立って恭しく低頭した。

「ハイドか。何用だ?」

「先ほどまでのお話、失礼ながら陰から聞かせていただきました」

 ハイドと呼ばれた白髪頭の少年は、慇懃な口調でそう前置いてから、

「僭越ながら魔王様。その勇者討伐のお役目、このハイドめにどうぞお任せください」

 と言葉を継いだ。

「貴様に……?」

 勇者討伐を自ら願い出たハイドに、魔王は怪訝に聞き返しながらも、真意を問いただすように「珍しいな」と呟きを漏らした。

「四天王の一人である貴様がこんな雑事に手を付けようとは。それともなにか興をそそるものでもあったか?」

 魔王の問いに、ハイドは「まさか」と首を横に振りつつ、

「ただ、ずいぶんと勇者達に苦心されているご様子だったので。それならばこのわたくしめが直々に勇者どもを始末して、魔王様の後顧の憂いを断ってみせようかと愚考した次第です」

「ほほう。殊勝な心掛けではないか」

 ハイドの言葉に、さも機嫌を直したように頷きを繰り返す魔王。

「ならば征け。四天王の一人にして我が魔王軍随一の頭脳派でもあるハイドよ。目障りな勇者どもに『謀略のハイド』と異名される貴様の手腕を存分に振るうがよい!」

「はっ。御心のままに」

 居丈高に命じた魔王に、ハイドは胸に片手を添えて邪悪に微笑んだ。

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