一人神隠し

連喜

一人神隠し

 子どもの頃、俺は酷くひねくれた子供だった。人とうまく関われないタイプで友達がいなかった。遊ぶのはいつも一人。誰も相手にしてくれなくて、遊んでくれる相手がいなかったからだ。『遊んで』と言うと、大体、殴られたり蹴られたりする役に回される。それはごめんだから、いつも一人でいるようになった。


 子どもにとって一日は長い。俺はあまりに退屈だから、どこかで読んだ「神隠し」という遊びをやってみようと思った。人間を隠すのは無理だから、最初は動物から始めた。猫に餌をやっておびき寄せて、叩き殺して、土に埋める。そうすると、飼い主が心配して近所を探しているのだけど、猫だと自然にいなくなったと思われて、それほど心配されない。猫はダメだなと思った。


 俺がやってることを客観的に見てみると、動物を殺すこと自体が楽しいんじゃなくて、動物がいなくなって、飼い主が嘆き悲しむ姿を見たかったんだと思う。


 次にやったのは、犬だ。田舎だと、犬は庭で飼っていて、鎖につながれている。うちの近所に、昼間は住人が仕事で出かけていて、誰もいない家があった。俺は犬に何度か餌をやって懐かせた。そして、決行の日。俺は水着に着替えた。返り血を浴びるかもしれないからだ。そして、包丁で一気に刺し殺した。犬の死骸を抱いていると見つかってしまうから、庭に穴を掘って埋めた。上から葉っぱを被せたら全然見えなくなった。


 そして、犬の首輪を丸く止めた状態でチェーンにつけて、地面に置いた。犬は首輪から頭を外していなくなることも珍しくないからだ。

 

 その後は、その家の外にある水道で血を洗って、水着をビニール袋に入れて、家から着て来た服をもう一回着て、学校のプールに行った。そこで血の付いた水着を洗い流す。包丁は普段使っていないものだけど、毎回、台所に戻す。


 親も気が付かない。こうやって、ひと夏で犬を5匹殺した。


 その次は、人間を殺したくなった。人気のない公園で、一人で遊んでいる小さな子どもにお菓子をちらつかせて、おびき寄せることに成功した。それで、お菓子を食べさせている間に、頭を石で殴って気絶させて、川に捨てた。

 でも、バレなかった。自分で川に落ちたということになった。発見されるのが遅くて、遺体が腐っていたのと、事件性がないと判断されてあまり調べられなかったからだ。


 ここまでが小学生の時の話。


 中学になると、みんな女の子に興味を持つようになると思うが、俺もそうだった。好きな子がいた。美人でみんなが、というような女の子。俺とは真逆の華やかな子だった。宝塚に入れそうなくらい、完璧な美少女。俺は友達がいなくて、いつもぽつんとしてて、運動が苦手で、男子から集中的にいじめられている。誰もが俺を毛嫌いしていた。


 俺は彼女をターゲットにすることに決めた。


 俺は1個上の学年のイケメンの先輩の名前を勝手に使って手紙を書いた。そして、彼女を人気のない神社に呼び出した。田舎だったから山の上にある神社。手紙には『君に愛の告白をしたいけど、恥ずかしいから誰にも言わないでほしい』と書いておいた。


 すると彼女は一人でやって来た。


 俺は出て言った。

 彼女は俺を軽蔑したような目で見た。

 その眼差しを今も忘れられない。


「これ、先輩に渡してって頼まれて」

 

 彼女は何も答えずに封筒を受け取った。それには、神社の裏にある、小さな祠の前に来てほしいと書いておいた。神社ってのは、本殿の周りをいくつもの小さな神社が取り囲んでいるのが普通だが、俺が指定した場所は日陰になっているし、薄暗くて誰も人が行かないようなところだった。


 俺は立ち去るふりをして、その祠のところまで先回りした。


 彼女はやって来た。憧れの先輩からなら、何を言われても信じてしまうからだろう。彼女に対して、猛烈に憎しみを感じた。


 彼女を背中から包丁で刺した。ブスっと。

 遺体を神社の裏の林に引きずって行き、俺はまた水着に着替えた。あらかじめ、家からシャベルと鋸を持ち出していた。彼女を解体するのはすごく楽しかった。彼女の血を舐めて、胸や性器に触った。彼女に生きていて欲しかったかというと、そうではなかった。俺を見下していたから、お仕置きをしてやったんだ。気分がよかった。


 俺は彼女をバラバラにして、神社の敷地に埋めた。その日は夜は雨の予報だったから、俺はその日に決めたんだ。本当に雨が降ってくれた。俺は神なんじゃないかと思った。この国には神は八百万いるんだから、俺だって神に違いない。警察犬が匂いから彼女を見つけるのは無理だろう。学校は神隠しに遭ったと大騒ぎになっていた。


 その後も、彼女は発見されなかった。彼女は行方不明者として今もネットに顔写真が出てくる。驚くべき警察の無能さ。俺はおかしくなる。


 俺はそれからは大人しく暮らしていた。大学から東京に来たが、神隠しごっこの快感が忘れられなくて、時々やっていた。


 最近だと、歌舞伎町の公園近くで立っているホス狂(ほすぐる)の女の子を狙う。ホストに入れあげる子は、風俗に勤めてその金を貢けど、店で働いている子はまだ健全だと思う。その下がいる。


 ホテルに行く前にスマホの電源を落とさせる。行為に集中してほしいからと嘘を言う。ホテル代は払いたくないから、大体、人気のない公園なんかでプスッとやる。メンヘラだから探す人もいないだろうと思っていた。もともと転落していた人間をさらに、貶めるのは快感だった。

 

 そのうち、俺は拉致られて、今は知らない場所にいる。ここの人は、みんな俺には冷たい。移動の時は何人もの人が俺を取り囲むが、普段は一人で閉じ込められて、もう一人神隠しで遊ぶこともできない。周りには俺が神隠しに遭わせてやった生き物が集まってくる。俺は神様だから、誰も俺を責めない。ただ、元の世界に戻してほしいと俺に懇願している。そんなことできるわけないから、俺は黙る。


 みんな知らないと思うけど、殺された人は、自分を殺した相手のところにしか出て行けない。俺が死んだとき、みんな成仏するんだろうか。俺は自分がずっと刑務所の刑場にいる気がしてならない。だから、俺がいなくなった後のことは知らない。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一人神隠し 連喜 @toushikibu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ