第1話・プロローグ

 グランは自身の部屋を眺めていた。

 ウラヌス帝国、最上位騎士「終焉」その第七位の少年、異名は「消滅の剣士」

 彼を恐れた人間達が付けた異名だ。その彼は今、荷造りを終え、時が来るのを待っていた。

 視界に映るのは、何年も使い古した机やベッド、十分に広い部屋だったと言える訳ではないが、彼には十分だった。

 コンコンッ…と部屋の扉が二回叩かれた。

 現在の時刻は深夜二時半を回る頃、到底人が訪ねてくる時間では無い。だが、今日だけは違う、彼は訪ねて来た者に心当たりがあった。

 迷う事なく扉を開けると、馴染みのある男女がそこには居た。

「入るぞっ…」

「お邪魔するね♪」

 辺りを気にするように警戒し、部屋に入って来たのは、彼の幼なじみだ。

「おいグラン、こんなに綺麗に片付けなくていいって、俺は言わなかったか?」

「うん、気づいたら本能的に最後だし、片付けてた…」

 すると不意に、背中から赤毛の少女が抱きついてきた。

「流石グラン♪ 綺麗好きっ♪」

「こんないかにも荷造りしてます。って奴が…

 今から亡命するとはな、まぁいいけど、荷造りした所で、荷物は最小限なのは変わらないぞ?」

 銀色の瞳がこちらを睨む。

「うん。分かってる。ちゃんと金銭と、

 これだけ。」

 少年は左手を左腰へと当てる。

「あぁ、金銭と武器だけあれば十分だ。

 時間も迫ってやがる、行くぞ」

 そして、部屋を後にした三人は、迷い一つなく深夜の帝国を駆け抜けた。


 第一話・アース


 映る景色には、

 生まれた故郷が火の海と化していく光景…、

 何十、何百の苦しみの悲鳴が聞こえてくる。

 自身の左手を握り怯えているのは、よく遊んでいた馴染みのある女の子だ。右隣には自分と同じ歳頃の男の子も居る。

 きっと今も夢を見てる最中なんだろう。

 十二年前から同じ、毎日同じ夢━━━━━


 ガタンッ、っと馬車が揺れる衝撃で目が覚める。

「んっ」

「起きたか」

「も〜やっと起きたよ♪」

 その二人の顔を見て改めてほっとする。そう、夢での二人とはかれこれ、今に至るまで一緒に旅をしている仲だ。

「なんて顔してんだお前、どっか悪いのか?」

「大丈夫…それより僕、どれくらい寝てた?」

「おまえなぁ…ほんの数時間だ、随分うなされてたみたいだが、、また同じ夢か?」

「ううんっ…いや、うん」

 銀髪に銀色の瞳の少年は、

 呆れるようにため息を零す。

「不思議な事にそれで眠れてるからまだいいんだけどな」

「全然良くないよダン!無理しちゃダメだめだからね、グラン…?」

「もちろんだよサテラ、実際ダンの言う通り

 眠れてはいるから大丈夫」

 赤髪の少女はムスッとした表情で後ろに縛った長い髪を整える。

「だいたいサテラ、お前は過保護過ぎんだよ、んなこと言ってる間にもう着くぞ、世界列強八大国、アースに」

 世界列強八大国。

 ━━━━━アース王国

 ━━━━━マーキュリー共和国

 ━━━━━ウラヌス帝国

 ━━━━━ネプチューン合衆国

 ━━━━━ジュピター共和国

 ━━━━━ヴィーナス王国

 ━━━━━サタン共和国

 ━━━━━マーズ連邦

 グランたちが今向かっているのはアース王国の首都エリス。三年前のウラヌス帝国との冷戦において、周辺の小国、村などを統率し、マーキュリー、ビィーナス、マーズとの四大国同盟を結び、長かった冷戦を勝利へと導いた国だ。

 銀色の瞳はその国を、どこか寂しげに見ていた。

「三年越しか……」

「……うん、三年ぶりだね」

 視界に飛び出してきたのは、終わりが見えない

 街並みと人の数、ひと目で平和を感じさせるこの景色に嘘と偽りはない。

「まさか三年でここまで国を修復、いや、

 発展させたもんだな」

「うん、国の穏やかな雰囲気、子供達の表情にも笑顔が見れるし、たったの三年でここまでになるなんて、ほんとに凄い事だよ」

「そ・ん・な・こ・と・り♪」

 前方で馬に乗り、馬車を引く少女からだ。

「二人ともっ!もうすぐ首都エリスだよ♪

 着いたらまず何しよっか!」

 サテラは幼い子供のように輝いた目を後ろに向ける。

「長旅だったとはいえ、二日後には入学が始まる訳だしな、それまでゆっくりでもするか」

 入学、僕達三人は数週間前、首都エリスに存在するある学園の入学試験を受けた。

「セントラル魔剣士学院」

 王国直下の唯一の学院であり、難関試験、実技を突破した者のみが、入学する事が出来る。

 まさしく騎士の登竜門と言われるエリート学校である。

 馬の足がが止まり、赤毛の少女は笑顔で告げる。

「よーし!二人とも♪ 首都エリス到着!」





































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