第46話 王子に言い寄られる妻

 オレたちは、冒険者ギルドの裏へ通される。


 そこには、騎士隊長を名乗る男性がソファに座っていた。二〇代中盤か三〇前くらいと思われる。銀色のヨロイが眩しい。装備は、大盾に槍か。馬に乗って戦うタイプなのかもしれない。ルイとは違ったタイプの騎士だろう。


「お初にお目にかかる。ボクはユーリング・マクレガー。王都ペンフォールドの騎士団で、隊長を勤めている」


 騎士が、立ち上がった。


「クニミツだ。ご丁寧にどうも、マクレガー殿」

「ボクのことは、ユーリと呼んでくれていい」


 ユーリが握手を求めてきたので、オレも応じる。


「ではユーリ、用件ってのは?」

「王がお待ちだ。あなたたちに、我が城に来ていただきたい」


 オレたちを歓迎してくれるそうだ。


「聞けばあなた方は、ティーレマン伯と親しいと聞いたが?」


 ユーリから問いかけられ、モモコが頭にハテナマークをつけた。


「ねえクニミツ、ティレーマンって誰?」

「ドリスさんの旦那さんっ」

 アンファンの街への道のりで助けた女性ハイエルフ、ドリスさんのご主人のことだ。

「ああ、あの太った人?」

「そうだ」


 ドリスさんは高身長で痩せてるのだが、伯爵はまるまると太っている。


「ティレーマン伯爵と仲がよいなら、決して悪い人間ではないと思ったのだ」

「まあ、ドリスさんはいい人だな」

「ご夫人は人格者だからな。それゆえに、魔王に付け狙われている。それを退けたのも、あなた方だと聞いた」


 すごい情報網だな。スマホもないのに。


「手紙や伝書鳩でも、そこまで情報は集まらないだろう? どうやって知った?」

「魔術による遠隔通信が進んでいるから、あらゆる話がこちらに聞こえてくるのだ」

「では、オレの妻に似た女性ニンジャのことも」

「……やはり、そうか。失礼した」


 ウンザリしたように、ユーリがうなだれる。


「そのことも含めて、ご説明いただきたいのだ」


 王都観光もままならず、王様の元へ向かうことになった。


 緊張しつつも、オレたちは王の間でかしこまる。


「おお、諸君らが魔王復活を企む魔族共を蹴散らしてくれたか。感謝する」


 ペンフォールド王は、予想より若い王様だ。婚約前の息子がいると聞いていたので、てっきりオッサンかと思っていたのだが。


「おお、お主がロザ・ドラッヘか! 我が妻となるにふさわしい乙女よ!」


 正面の扉が開き、王が眉間にシワを寄せる。


「ウワサ通りの美貌だなーっ、ロザ・ドラッヘよ! かわいい系かー」


 扉の奥から現れたのは、一〇代後半くらいの少年だ。絵に書いたような陽キャである。いかにもバカ王子な風貌だ。


 そんな相手を、モモコが不快に思わないわけはなく。


「我はグレンだ。我が妻よ」

「あの、私の夫はこちらです」


 モモコが、オレに腕を回す。今までそんなこと、しなかったのに。


「マジで?」

「ああ。マジだが。それと、もう一つ。あいにくモモコは、あんたと面識がない」


 オレも夫婦らしく、妻であるモモコを抱き寄せる。


 王とユーリが、愉快そうに微笑む。


「むむう、我が妻となる女を、たぶらかしおってー」


 グレン王子が、腰の剣を抜こうとした。


「やめないか! モモコ殿はドリス・ティレーマン殿の許しを得て添い遂げられた身。確認済みである」


 オレたちが夫婦である証明書を、王はユーリに渡してグレン王子に見せる。


「ぬぬぬー。うわーん。黒髪ロングの強気キャラなんて、性癖どストライクだったのにー」


 王子はうずくまって、泣いてしまった。


「……すまぬ。お茶でもしよう」


 気を取り直すべく、王が庭にお茶の席を用意してくれる。


 正直言って、早く帰りたかった。モモコだって、同じ気持ちだろう。


 ずっと泣きっぱなしだった王子も、ドーナツを口に入れた途端、機嫌を直した。


「王子にお聞きしたい。どうして妻に、好意を持ったのか?」

「ぐずん。助けてもらった」

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