第13話 念願の……

 旅へ出るたびに、いちいち風呂を浴びに宿をとるのが面倒なのである。


「気持ちはわかるけど、装備品の売買があるから別にいいじゃん」

「でもなあモモコよ。こういった細かい出費が後々に響くんだよ」


 今はたいてい大浴場か、個室のシャワーを使う。


「クニミツ、庶民派すぎん?」

「オレはもともと庶民派なのっ」


 また、他の冒険者と一緒に入るのがしんどい。


「たしかに、お風呂があるのはいいかも。ジロジロ見られるのは、たしかにヤだ」


 モモコは一般的なボディを、遥かに超えているからな。


 さっそく、風呂づくりを始めることにした。


 自宅からダンジョンまでの道を開拓しつつ、木材や石材を集めていく。


「湯は井戸から溜めて、足が伸ばせる程度の浴槽があるといい」

「うんうん」


 井戸は汲み上げ式から、水道にまで発展していた。


 これをさらに、風呂釜へと繋げていく。


 クラフトレベルががったので、【かまど】を作る。これで火を炊くのだ。ただし、料理や錬成とも併用できるため、どれか一つを行っていると使えなくなる。


「三つ作れるようにしたいね」

「うむ」


 とにかく今は、風呂の温めだ。


 ようやく、風呂が沸く。


 オレたちはハイタッチをした。


「では、お先にどうぞ」

「えっ。先に入りなよ」


 たしかに、オレの方が汚れている気がする。


「入りたいって言ったのは、クニミツのほうじゃん」

「わあーったよ。では、遠慮なく」


 オレは湯に浸からせてもらう。


「ふう」


 これはいいものだ。なんといっても、湯船を独り占めできるってのがいい。


「湯加減はどう?」

「ああ。とっても快適だぁ!?」


 声がした方向へ振り返ると、ビキニ姿のモモコがいた。


 オレは慌てて湯船に首までつける。


「お前、何考えてんだ!?」

「水着もクラフトできるから。作ろうと思って」


 精霊の力を借りているのか、モモコの格好は花柄のビキニである。イメージカラーの青をベースにしていて、大胆でありつつおとなしい。


 着ているモモコが恥ずかしがっているので、余計にこちらの背徳感をあおってくる。


「背中流してやろうかなって」

「いいよ。そんな気を使わなくても」

「でもさ、こういうイベントってお約束じゃん?」


 まさかコイツ、楽しんでるのか?


「とにかく、背中を向けなよ」

「お、おう」


 モモコがぎこちなく、オレの背中を流す。


「石けんとかクラフトするの忘れてた」

「なんだかんだ、作るのが多いな」

「もっと錬成レベルを上げないとね」

「それがわかっただけでも、今日は大収穫だな」

  

 

 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~


 当時のいじらしさも、数週間も経てば失われていったわけだが。


「いただきまーっす。あー、おいし。やっぱゴハンはクニミツに任せて正解だね」


 あれだけ野菜嫌いだったモモコも、ナスやニンジンをガツガツ食っている。歳を取れば、味覚も変わるものだ。


 オレたちは夏野菜カレーを食いながら、当時を振り返る。


「あのときは全部手探りで、大変だったよね」

「レベル一の段階でサービスしてもらっていたから、かなり楽だったんだがな」


 案外、敵が強いのだ。歯ごたえのある冒険を求めていると、思われたのか?


 ともあれ、オレたちは生産のレベルが五までアップした。オレたちのクラフト生活も、ムダではなかったわけである。


「ごちそうさまでしたーっ……ん?」


 手を合わせたモモコが、物音に耳を澄ませた。

 かまどが「チーン」と音を鳴らす。


「クニミツ、かまどの火が止まった! 完成したよ!」


 風呂さえ後回しにするほど優先していた【かまど】の火が、ようやく止まった。


「おっ」


 オレたち二人は、立ち上がる。念願の銃が、手に入る瞬間だ。


 かまどから、銃身を取り出す。


「やったぞ。これで、銃が完成した」


 素材は最下級のものだが、すぐにでも手に入れたかったからいい。


「リボルバーのピストルか。上々だな」

「こっちはオートマチック」


 モモコのは、二丁拳銃だ。


「リロードはどうするんだ?」


 両手持ちだと、マガジンのチェンジで手間取りそうだが。


「これ」


 と、モモコが一回転する。


 腰のベルトの前後に、マガジンのホルダーが。


 試し打ち用の丸太人形に、モモコは全弾撃ち込む。


 腕を振る勢いでマガジンを弾き飛ばし、ベルトにあるホルダーに銃の底部分を近づけた。自動的に、マガジンが装填される。


「おお」

「ほら、クニミツも」

「よし」


 オレは、丸太人形に狙いを定めた。


「待ってモジャ! 撃たないでモジャーッ!」


 耳の長い猫のような謎の小動物が、丸太人形に隠れていたではないか。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る