第3話 戦争の音


 連続する爆発音はこちらに向かって来ていた。

「ちぃ、マジでこっち狙いか!」

「やっかいー」

「私を呼び出しておいてそれはないのではないかね」

 カースドの皮肉を華麗にスルーして現場に向かう。

 そこには火を纏った悪魔が暴れ狂っていた。

「あれは……サラマンダー……?」

「みたいだねー」

「火の悪魔では最もポピュラーなネームドだ。どうする?」

 リィルは顎に手を当てて考える。

「私が前面に出る。ロゼは後方支援」

「おーけー」

「私はここで見学してるよ」

「お前が足になるんだよ!」

 カースドに乗り込むとアクセルを想いっ切る踏む。

 サラマンダーに向かって一直線だ。

「おいおい、このままじゃ焼け焦げるぞ」

「そのための聖水ならしこたま積んでる!」

 激突と共に洪水が溢れ出る。

 聖水をもろに浴びたサラマンダーは悶え苦しみながら爆炎を辺りに撒き散らす。

 そこに支援射撃。

 バラダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!

 ミニミ軽機関銃の掃射がサラマンダーを貫く。

 そこにもう一体の悪魔が現れる。

 それは――

「シルフ!? 火と風はヤバい!!」

 火炎竜巻。燃え盛る旋風は、踊る。サラマンダーを取り込んだシルフはその身を膨れさせて火を吹くようになった。

「最悪のくみあわせー」

「不味いな、リィル、どうする」

「しこたま聖水ぶつける以外にやり方あるならどーぞ!」

 ミニミ軽機関銃を構えたロゼが思いっきり外に出るとシルフの前まで飛び出す。

「ロゼ!?」

「もじどおり風穴をあけてやるぜー」

 くぐもった掃射音が低く鳴り響く。

 ミニミ軽機関銃をシルフの横っ腹に直接当ててぶっ放したのだ。

 そこから風が抜けていく。炎を吹けなくなったシルフの横っ腹に向かってリィルが聖水手榴弾を投げる。

 シルフの内部で聖水が炸裂する。

 浄化され消え去るシルフ。

 こうして一戦は終わった。

 しかし――

「悪魔の気配、消えないわね」

「いやなくうきー」

「ふむ、確かにあと五体はいるな」

 一度に五体はさすがに多すぎる。

 二人でも対処しきれない。

 どうするか決めあぐねていると。

 上空に轟音。

「何ッ!?」

「ばくげききー」

「ほう、アメリカ対悪魔用兵器か」

 爆撃機からアナウンスが鳴る。

『これより、悪魔の殲滅を始めます。浄化の雨セット、発射まで残り十――」

「まずいカースドまで祓われる!」

「にげろー」

「フルスロットルだ、飛ばすぞ」

 カースドに乗り込み一気に現場を離れる。

 するとどうだ。

 数秒後、音を置き去りにして衝撃が落ちる。

 そしてそれは豪雨に変わる。

 撒き散らされる聖水。

 これを作るために一体どれだけの聖者が祈りをささげたのか。

 アメリカならではの大量生産主義といったところか。

「おっかねぇ……」

「りぃる。口調ー」

「ふむ、だが確かにアレは厄介だ。アメリカ側との共闘は望むべくもないだろう。なにせ悪魔が現れたら町ごと浄化しようとする連中だ」

 カースドが己の保身込みとはいえ、その評価は正しいだろう。

 いくら訓練した人間とはいえ、あの爆撃をもろに喰らえばただでは済まない。

「自由に悪魔狩りも出来ない、か」

「でもさー」

「ああ、そうなるとクイーンアンの福音とやらはどこにあるのか、だ」

 謎が謎を呼ぶ。よほど知能のある悪魔が隠し持っているのか。

 それとも――

「アメリカ側が盗んだか、よ」

「おおごとー」

「厄介な事になりそうだな」

 エクスカリバーが盗まれたようなものと思え。

 シスター・バランスの言葉を思い出す。

 それはつまり。

「伝説の聖剣の軍事転用……英国こっち側からしたらたまったものじゃないわね」

「じゃぱにーずばちあたりー」

「神罰を下せ、つまりはそういう任務か。全額前払いも頷けるな」

 敵の敵は味方とは限らない。

 これは小さな戦争だった。

 戦争の始まる音がした。

 

 ……to be continued?

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