第3話

「同じ部屋なんて……全く、何を考えているんだか。ねぇ? 一颯君?」

「……そうだな」


 愛梨の問いに一颯は気だるそうに答えた。

 てっきり一颯も「全く、そうだよな!」と同意してくれるものだと思っていた愛梨は、思ず眉を顰めた。


「そう言えば、一颯君。あまり嫌そうじゃなかったね。……何? もしかして、私と一緒に寝たかった? 寂しがり屋だなぁー」


 ニヤニヤと愛梨は挑発するように一颯に対してそう言った。

 愛梨に煽られた一颯は眉を顰める。


「別にそんなんじゃない」

「またまた、無理しちゃってー」

「無理に抵抗しても疲れるだけだ。それに……気にし過ぎるのも、どうかなと思ってな」


 一颯は小馬鹿にするように愛梨にそう言った。

 実際、一颯の目には愛梨が過剰反応しているように見えた。

 

(……やっぱり、この前の“キス”を意識しているんじゃないか?)


 などと一颯は内心で勘繰った。


「別に気にし過ぎとかじゃないし。……私は、ほら、か弱い女の子だから。一颯君みたいなエロガキと同じ部屋にいるのは危ないかなぁと」

「ふっ……」


 一颯は小さく鼻で笑った。

 誰が、お前みたいな生意気なだけの幼馴染にそんなことをするか、とでも言うように。


 もっとも、一颯も愛梨が魅力的な女の子であることは知っているし、その子と同じ部屋で寝泊まりすることになった、このシチュエーションそのものにはかなり緊張を覚えていたが……


 その部分はあえて隠す。

 むしろ勘付かれないように、全く気にしていないようなフリをしてみせた。


 この状態を意識していることに気付かれたら、それこそ“エロガキ”だ。

 揶揄われてしまうかもしれない。

 もしくは、気持ち悪いと思われてしまうかもしれない。

 

 それだけは嫌だった。


 と、そんなことを脳内でグダグダと考える程度には一颯も思春期の童貞だった。


「……何、その態度」

「別に。俺は正直、もうだるいから寝る」

 

 一颯はそう宣言すると愛梨に対して背を向け、毛布を被った。

 その後も愛梨は一颯にうじうじと言い続けたが……


 一颯は「体調が悪い」を盾にして、相手にしなかった。

 

 次第に愛梨も諦めたのか、静かになり……

 やがて一颯の意識は暗闇に落ちて行った。




 そして……



 一颯が静かになってからしばらくして……


「寒くなってきた……」


 愛梨は小さく丸まりながら、そんな声を上げた。

 それからチラっと一颯の方を見て……


「寒いなぁ……」


 もう一度、そんなことを言ってみる。

 しかし一颯からの反応は全くない。


「……一颯君?」


 名前を呼ぶ。

 反応はない。


「……寝ちゃった?」


 もう一度、尋ねる。

 反応はない。


「……もうちょっと相手してくれててもいいじゃん」


 愛梨は少しだけ不機嫌になった。

 

 親と口論になった時、味方になってくれなかった。

 怠い怠いと言うばかりで、全然、会話もしてくれない。

 同じ部屋にいるのに、自分は意識しているのに、興味の無さそうな態度ばかり取る。

 全然、こちらの体調を気遣ってくれない。


 愛梨は一颯に対する不満を少しずつ頭の中で羅列していき……

 そして苛立ちを募らせていた。


(ちょっと、ワクワクしてたのに……)


 当然のことだが、愛梨は一颯のことを心の底から信頼している。

 一颯は愛梨を傷つけるような真似は、絶対にしないと。


 実際、一颯が愛梨に明確に暴力のようなものを振るったのは、それこそ小学二年生くらいの頃が最初で最後だ。

 しかもそれは愛梨の方が先に手を出したことが原因でもある。


 故に愛梨は一颯に対する不安や恐怖心のような物は何一つない。


 もしあるとするならば、それは“異性と同じ部屋にいる”ことへの興奮と、“友人(幼馴染)と久しぶりにお泊まりする”ことに対する高揚感だった。


 一颯君とどんなことをして遊ぼうかな?

 などと、考えていたのだ。


 気分は修学旅行だ。


 嫌そうな態度を見せたのは両親に対する反発心と、内心ではワクワクしていたことを隠すためでしかない。


 にも関わらず、一颯は愛梨の相手を全然してくれず……

 勝手に寝てしまったのだ。


(そりゃあ、体調、悪いのかもしれないけどさ……)


 そう言う時だからこそ、お互いに励まし合うべきじゃない?

 などと、考えられる程度には愛梨は元気だった。


「暇だなぁ……」


 愛梨は携帯を弄るが、しかしあまり楽しくない。

 携帯を弄るのは嫌いじゃないが、しかし今は携帯よりも一颯の気分だったのだ。

 一颯を弄って遊びたい。


 とはいえ、風邪で寝込んでいる一颯を叩き起こすほど愛梨は非常識になれなかった。


「……ちょっと、寒くなって来ちゃった」


 気が付くと愛梨自身も体調の悪化を感じ始めていた。

 身体の奥から湧き上がるような寒気がしてきたのだ。


 暖房の設定温度を上げてみるが、しかしあまり効果は感じられない。

 そうすぐに気温は上がらない。


「……寒い」


 ふと、愛梨は思い出す。

 “あの日”のことを。

 一颯の身体の温もりを。


 背徳的な唇の感触を。


「……別にいいよね?」


 愛梨はそっと立ち上がると……

 一颯のところまで歩き、その毛布を軽く持ち上げた。


 そして布団の中に入り込み、一颯の背中に自分の身体を寄せる。


(あ、温かい……)


 想像以上に一颯の身体は暖かかった。

 温もりを求め、距離と接触面積を縮めて行く。


 そして気が付くと愛梨は一颯の背中に抱き着いていた。


(……全然、起きない)


 どんだけ鈍いのだと愛梨は内心で呆れつつも……

 しかし眠気に耐え切れず、そっと瞼を閉じた。



 愛梨の意識は微睡みの中に沈んだ。





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以上が二人が汗まみれになった経緯です。


面白い、続きが早く読みたいと思っていただけたらフォロー・レビュー(目次下の☆☆☆を★★★に)をしてもらえるとありがたいです。


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