第三章 〇〇の愛梨ちゃん編

第1話


 とある学校の屋上に、二人の男女がいた。

 一人は背の高い少年で、もう一人は妖精のように可憐な少女だ。


「……一颯君はさ」


 金髪の少女は少年に迫る。


「私が……ただの悪戯で、こんなことをするような子だと、思う?」


 悲しそうに少女はそう言った。

 少女の言葉に少年は動揺の色を隠せない様子だ。


 そんな少年に対し、少女は言葉を続ける。


「……私が、好きでもない人に、こんなこと、すると思う?」


 少女は問い詰める。


「そんな女の子だと、思ってるの?」


 少女の言葉に、少年は後退る。

 それに合わせて少女は詰め寄る。


「ねぇ、一颯君」


 少女は少年の顔を覗き込みながら、言った。


「一颯君は……私のこと、どう思ってる? 一颯君にとって、私は……何?」






 時は少々遡る。


(今頃になって太陽出てきたな……)


 一颯は雲の合間から顔を出し始めた太陽を睨みつけた。

 

 本日、一颯たちの高校では水泳の授業が行われた。

 授業時間中、ずっと太陽は隠れていて、そして風も強かった。


 水温も低く、とてつもなく寒かったのだ。


(……でもまあ、これでプールも終わりか)


 今日は最後のプールの日だった。

 極寒を味わうのはこれで最後というのが、唯一の救いだった。


 さて、一颯が日向ぼっこで身体を温めていると……

 にわかに教室が騒がしくなった。


 着替えを終えた女子たちが戻ってきたのだ。

 そしてその中には愛梨もいた。


「あー、さっむ! 九月にプールなんてやらないで欲しいわね。一颯君もそう思わない?」


 愛梨は一颯を見つけると、真っ先に駆け寄り、開口一番に授業への文句を口にした。

 丁度、一颯たちがしていたのと同じ話だ。


「その通りだな。正気の沙汰じゃない」


 一颯は愛梨に同意するように頷いた。

 だよね。と愛梨は頷くと、寒そうに体を震わせた。


「ああ、寒い……一緒に当たってていい?」

「いいけど、焼石に水だぞ」


 ようやく顔を出し始めた太陽君だが、まだ本調子ではないらしい。

 身体を温めるには不十分だ。


「そうね……あ! ……いいこと、思いついた」

「……いいこと?」

「身体を温める方法。……やりたい?」


 ニヤっと愛梨は笑みを浮かべてそう言った。

 これは何かを企んでいるな……と一颯は直感したが、しかし本当に身体が温まるならと、頷いた。


「まずはこうして……」


 一颯が頷いたのを確認すると、愛梨はカーテンを手に取り、少しだけ閉める。

 一颯と愛梨の二人だけが、カーテンの内側に入る形になった。


「こうすると……微妙に温かくなるでしょ?」


 なるほど、確かに太陽の光りが僅かにカーテンに反射することで、先ほどよりは暖かくなった……気がする。

 気がする程度だ。もしかしたら、気のせいかもしれない。


「いや、まあ、確かに温かいけど……」


 “いいこと”と言えるほどの物じゃないだろ。

 と、一颯が言おうとした……その時。


「えいっ!」


 愛梨はそんな声を上げながら、一颯に抱き着いた。

 少し冷たく、しかし柔らかい物が一颯の体にぴったりとくっついた。

 塩素と、そして一颯が良く知る愛梨の香り――香水の匂い――がした。


「お、おい!」

「ほら、温かいでしょ?」


 愛梨はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ますます一颯に自分の体を押し付ける。

 二の腕から柔らかい双丘の感触と、愛梨の体温が伝わってくる。

 動揺と共に一颯の体温が上がる。


「い、いや……そ、そういう問題じゃ……」

「どういう問題? こうして身体を温めることは、健康にも良いと思うけど」

「い、いや、その、当たって……」


 胸が当たっている。

 一颯は口をもごつかせながら抗議するが、しかし愛梨は意に返さず、むしろ挑発するように笑った。


「それがどうしたの? もしかして……幼馴染のこと、女の子として、意識しちゃったりするの?」


 愛梨は身体をピッタリと、一颯の身体に密着させ、そう言った。

 窓側へと一颯を追い詰め、スカートから伸びる足を一颯の足と足の間に割り込ませる。

 ビクっと一颯は身体を震わせた。


「ま、まさか……お、お前を相手に、そんなわけ、ないだろ。た、ただ……その、ここは教室で……俺とお前の関係が、その、変に勘違いされるのは良くないかなと……」


「カーテンで見えないわよ? ……ここは二人っきり」


 愛梨は一颯の耳元でそう囁いた。

 一颯は反論しようと言葉を探るが、しかし動揺のせいか効果的な言葉が浮かばない。


「……もう、いい。好きにしろ」


 一颯は「別に負けてない。むしろ許してやっているのだ」と自分に言い聞かせながら、そう言った。

 一方で愛梨は妖艶な笑みを浮かべると、小さく頷く。


「そう。分かったわ」


 こうして二人は授業が始まるまで、身体を温め合った。





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ついに愛梨ちゃんにデレ期が……?



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