無為

旧星 零

回り道

 ときどき、電気を動力にする、列車のなかにいる。窓の向こうに映っている。川。寂れた橋。青々と茂る草原。


 ここはどこだ、と文字を探す。天井をじっと見る。一、二、三と左端のつり革から視線をずらすと、駅名がある。

 小川駅。

 ここはどこだ、と路線図をなぞるように眺める。緑、青、赤の入り交じるなかで、小川、小舟、小湊、梢とつながっている。

 

 うたた寝をする。

 ここはどこだ、と呟いて、すっと心が冴えていく。梢から、あと三つ先。

 電気の通った、船をこぐ夢を見る。赤く染まった旗をたよりに、あちらへこちらへ櫂でこぐ。揺れる、揺れる。

 うたた寝をする。


 梢から、三つ先。そして乗り換え、四つ先。12をチクリと針がさす。電気の通った階段を、駅舎を抜けて、日を浴びる。

 ああ、道があるばかりだ。


 何かを目指している。ただ、心は北を向いていて、影は西を向いていた。南東に浮かぶまるい光が、私なのかもしれない。

 さあ、さあと穂が囁く。さあ、さあ、帰ろうと。

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