アフター65 「不意打ち」
移動したとある一室。ベッドとシャワールームがあるだけのクッソ狭い部屋で1人だけが力尽きていた。
「はあ……はあ……もう……ムリ……」
息をするのもやっと。ベッドに這い上がることも、腕を伸ばすこともできず、ただ床でぐったりしてる由香にあたしは言った。
「いや、ムリって言われてもね。早すぎない?まだ始まったばっかなんだけど」
「そう……だけど、んっ……入っていきなり……なんて聞いてない……んだけど!」
余韻が残る身体を震わせながら由香が文句を言ってきた。
「いやちゃんと言っただろ。戦うならもう始まってんぞって。ついでに勝負を挑むのはやめとけって」
「だからってドアを閉めていきなり――!」
「減らず口を叩くのはこの口かな?」
「んん!?」
文句ばっかでうるさい口を塞ぐ。
逃げようとする由香を抱きしめて呼吸さえも吸い込むくらい濃いキスをしてあげると、身体の力が抜けていく。
「はぁ……ふぅ……」
あらら……キスだけで達しちゃった?
気絶してる間にパパッと脱がせてしまう。
「あらヤダ。かわいい」
白地にピンクの花柄のブラは白い肌の色と相まってまるでお花畑のよう。入って真っ先に剥ぎ取ったパンツとお揃いで、触り心地も良かったから結構お高いものなのかもしれない。
「ババくさ」
「うっさい」
余計な茶々を入れてきた創司を黙らせて、あたしは由香の身体に目を落とす。
「ヨワヨワ過ぎない?高校んときの涼より弱いんだけど」
「これで満足するアイツら、もしかしてお前とヤッたときと変わってねえんじゃねえの?」
創司がぐったりしてる由香のお腹を突っついた。ピクピク反応はするけど、まだ意識は戻ってないっぽい。ちょっとやり過ぎたかも。
「女子とヤってるときもこんなもん?」
「や〜人によるけど。でもさすがにここまでじゃないかな。って言っても初めての子もいるから多少は手加減するけどね」
「初っ端からバケモンを生み出されてもな」
「ほのか2号はさすがに手に余るよね」
そう考えると、高校の時点であの状態にした光次はある意味恐ろしい。しかもほのかと結託して2号どころか別のバケモノを生み出そうとしてるし。しかも身内。色々ヤバすぎるでしょ。
ブラをとって仰向けになると平原になるくらいの胸をふるふると揺らしてあげる。
創司があたしとか澪先輩によくやってるから試しにと思ってやってみたけど、これが案外面白い。なにが、って聞かれると難しいんだけど、とにかく楽しい。
「楽しいからってやりすぎるなよ?またお姉様って言われるぞ」
「由香に言われるのはちょっとイヤだなぁ……」
年下ならともかく同い年でしかも元とはいえ友達からの「お姉様」はちょっと……イヤ、いろんな意味でキツい。
「でもちょうど良かったわ。ヒマつぶしの場所があって」
「あ〜ね。たしかに」
別にヤる気なんてさらさらなかったけど、ちょうどいいところに遊び相手が来てくれたのは助かった。遊び相手というにはちょっと力不足な気がしなくもないけど。
「このまま涼に引き渡してもいいけどな」
「あ〜お手伝いさん欲しがってたね」
涼の逆襲に耐えきれなくなった薫が週2でアパレルショップに出るようになってからかなり忙しくなったらしい。
薫には敵前逃亡と自業自得だろって話だけど、会う日の直前に2日まるまる気づかないうちに飛んでたって話を聞いてあたしはそれ以上なにも言えなかった。
「つってもアイツ、お手伝いさんだろうとなんだろうと、片っ端からオモチャにするからなぁ」
「この前も1人逃げたって言ってたよね」
「結局行き場がなくてすぐに引き戻されたけどな」
そういえば涼とはしばらく会ってないなぁ。前に会ったのはいつだっけ?海に行ったとき以来?
「ん……」
ベッドしかない部屋でするような話でもない話をしてると、由香の目が開いた。
「おはよ」
「……」
事態を飲み込めてない由香の身体にちょっと刺激を与えてあげる。
「んんっ!?」
ビクビクッと電気が走ったみたいに揺れる自分の身体に驚いたらしい。一発で焦点があたしに向いた。
「なにしてんの!?」
「なに……っていうか、ナニ?」
「ぶっ飛ばすよ!?」
お。いつもの調子に戻ったっぽい。思ったより復活までは早そう。
「っていうか、ちょっと待って?なんで裸なの!?」
「あ、そうそう。見えないとこ全部キスマークってやり過ぎだと思うんだけど。特にここ。淫紋みたいになって――いや、淫紋か。どうせだったら脱毛して見えるようにすればいいのに」
裸にしてからずっと気になってた場所をあたしが指すと、由香は慌てた様子で手でそこを隠した。
「いや、これはアイツらの趣味――ってなに言わすの!?」
「へえ。面白い趣味してんな」
「――っ!?」
創司がいるのを忘れてたらしい。声がする方に目を向けると、由香は息を呑んだ。
「そんな顔しなくてもなんもしねえし、してねえよ。する気もねえ。見る専」
「……そういう趣味の人?」
「ちょっと違うかなぁ」
女の子同士でイチャイチャしてると遠巻きに見ては楽しそうにしてるのを知ってるだけに、あんまり強く否定できないあたしは苦笑するしかない。
「一応、今の状況を言っとくと、穂波に勝負を挑んで開始2秒で試合終了、ってとこ」
「は?」
「証拠はそこ」
と、創司がドアがある方を指した。
濡れたパンツを起点にあたしがいるところまで伸びるカーペットの色が真ん中だけ色が変わってる。なにがあったのかは言わずもがな。ここがそういうことをする場所でよかったと心の底から思ってしまう。
けど、もちろんこれで終わるわけがない。
「え?は?」
「あ、スカートは無事だから。安心して」
「いや、安心とかそういう問題じゃない――」
「あ。もちろん、上も全部無事。ダメなのはパンツだけだから。や〜勝負挑まれたから久しぶりにちょっと本気出してみたんだけど、やっぱダメだったわ。由香ごときじゃ勝負にならないね」
事態をようやく飲み込みはじめた由香を煽りにかかる。
「はぁ?勝負ってアンタ、後ろからいきなり襲ってきてなに言って――」
「っていうと思ったから、ほい」
由香の両脇に手を入れて立たせる。少しヨタついたけど、由香はちゃんと立った。
「あたしがやったのはキスと乳揉みと下をちょっと撫でただけ。中はまだ手入れてない。ね?」
「ああ。パンツの中までだな」
「……」
ウソでしょ、とでも言いたげな視線を向ける由香に創司が付け足した。
「言っとくけど、穂波も俺からすれば弱いぞ」
「そりゃアンタが男だからでしょ」
「違う違う。俺の身内」
「は……?え?ちょっと待って?どういうこと?」
「アンタが男囲ってんのの逆ってことだね。しかもお金のやり取り抜きで」
「……」
酸素を求める金魚みたいに口をパクパクさせてる由香。まあ、そうだよね。お金で繋がってるだけの関係しかないんだから、こういうのを目の当たりにしてまともな反応ができるわけがない。
なんかちょっとだけ優越感。
それと同時になんとなく創司が言ってたことがわかった気がしてきた。
「ってことでほい。アンタのターン。デキる女をぶっ飛ばして」
服を脱いで由香の手を取って、あたしは自分の胸に触れさせる。
創司の手でもなく、双子や涼、麻衣の手でもない、しばらく離れてたけど、一緒にいたときは散々服の上から揉み合ったりした友達の手。
いや、なんでこんなことになってるのかサッパリだけど、ちょっと楽しみなのも否めない。
「いいの?マジで」
「いいって言ってんじゃん。なんで許可が必要なの」
「や、なんとなく……」
なんて言いながら由香の手はふにふにとすでにあたしの胸を揉んでる。
「もっと本気でやっていいんだけど。そんなだとまた負けるよ?」
「う、うっさい。女同士でガチでヤったことないんだからしょうがないでしょ」
「ふうん?じゃあ、教えようか?って言っても自分が気持ちいいとこをやるだけなんだけど」
「へえ。なら、本気でやるわ」
目の色が変わった由香に押し倒されたあたしはしばらくの間、辿々しい快感に身を委ねた。
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