(9)予想外の襲撃

「うわっ!」

「ぐわっ!」

「な、なんだ!?」

「ひぃいぃぃっ!!」

 それらの矢はカイル達目がけて放たれ、刺客の騎士達は背後の森からの攻撃になすすべなく背中や太腿に矢を受け、全員悲鳴を上げて地面に転がったり蹲った。


「殿下、下がってください!」

「カイル様!!」

 騎士達の鋭い警戒の声と共に、素早くメリアがカイルの前に飛び出す。普通であれば飛来した矢がメリアに刺さる筈が、それは彼女の身体に達する直前で弾かれたように不自然に落ちた。


「ちぃっ、こんな所で! 野盗か!?」

 アスランを含めた何人かの騎士にも矢が飛来したが、明るい月明かりの下でその軌道を見極めた彼らは、即座に剣を抜いてそれらを叩き落とす。その場に緊張感が満ちて不気味に静まり返る中、森の奥から十人程の集団が姿を現した。


「ここら辺じゃ珍しく、なんだか羽振りの良さそうな一行だと思ったら仲間割れとは、なんだか訳ありだな。それにそこの女。お前、加護持ちだよな? 俺の放った矢が、あんたの手前で弾かれて落ちたのが、しっかり見えたぜ」

「…………だったら、どうだって言うんですか?」

 周囲の男達に油断なく弓を構えさせつつ、先頭に立つ三十代半ばに見える男が冷静に指摘してきた。しっかり指をさされてごまかしようもなかったメリアは、カイルの前に立ちはだかったまま、警戒する視線を向ける。そんな彼女に、周囲から驚愕の視線が突き刺さった。


「なんだって?」

「加護持ち?」

「なんで加護詐欺野郎に、そんな侍女がついているんだよ!?」

 刺客として同行してきた騎士達は怪我の痛みに耐えながら驚愕し、他の騎士達も無言のままメリアに目を向ける。するとここで、カイルがメリアを軽く押しやりながら前に出た。


「メリア、ちょっとどいてくれ」

「カイル様、危険すぎます」

「良いから。命令だ」

 半ば強引にメリアを斜め後方に押しやってから、カイルは冷静に正体不明の襲撃者達に向かって提案する。


「そこの君達、欲しいのは金品だろう? それを渡したら皆に危害は加えず、おとなしく引き上げてくれるか?」

「ほう? 随分話が分かる若造じゃないか……。と、言うとでも思ったか、この世間知らずの馬鹿が」

 カイルの提案を鼻で笑った野盗達だったが、その時、その一帯に怒声が轟いた。


「馬鹿は貴様だ、ロベルト! 貴様は一体、こんな所で何をしている!?」

「え?」

「ロベルト。あのおっさん、お前の知り合いか?」

「サーディン。彼は知り合いなのか?」

 双方で困惑した空気が漂い、カイルは少し離れた所にいるサーディンに確認を入れた、すると彼は、苦虫を噛みつぶしたような表情で、呻くように説明してくる。


「かつての部下です。十年ほど前に突然近衛騎士団を辞めて、行方知れずになりましてな。ご両親もかなり心配しておりました」

「近衛騎士だったのか? それにサーディンの部下なら、第一大隊所属だった筈……」

 近衛騎士団の中でも、家柄に関係なく実力主義で名高い隊の所属であれば、剣の腕前や忠誠心に申し分なかったのが推察でき、それがどうして野盗などに身を落としているのかとカイルは呆気に取られた。それは他の騎士も動揺だったらしく、揃って無言のまま困惑顔を見合わせる。


「うるせえぞ、ジジイ! このくたばりぞこないが!!」

「俺がジジイなら、貴様は赤子だろうが! 殿下! こやつと取引などもってのほかです! すぐにこやつらをまとめて叩き潰しますので、下がっていてください!」

「『殿下』だぁ? ああ、そう言えば風の噂で、加護詐欺王子様が臣籍降下されたって話を聞いたなぁ……。あれ、あんただったのか。確かにしょぼくれた、王子とは思えないような人相だよな」

「貴様……、どうやら命が要らないらしいな……」

「アスラン、お前は引っ込んでいろ。かつての部下の不始末であれば、俺がケリをつける」

「引っ込むのは老害の方だ。自分で言っていたよな?」

「どいつもこいつも……、二人まとめてぶっ飛ばしてやる!」

「サーディン、アスラン。内輪揉めは止めようか」

 ロベルトの言動で切れたサーディンとアスランの間でも論争が勃発し、カイルは頭痛を覚えながら二人に声をかけた。そんな一触即発の空気をものともせず、ロベルトが騎士達を牽制しながら話を戻す。


「おっと、あんたら動くなよ? 仲間がしっかり狙いを定めているから、動いたらすぐに矢をお見舞いするぜ? まあ、仮にも王子だったら、加護持ちを護衛にしていてもおかしくはないよな? かなり珍しいのは確かだが」

 そこでロベルトは、視線をメリアに合わせてきた。


「だがなぁ、お嬢さん。そいつはあんたが命を懸ける程の価値がある奴なのか? 怪我をしたくなかったら、引っ込んでいた方が身のためだぜ? 俺達は紳士だからな。好き好んで女を斬りつける趣味はないんだ」

 その言い草に、メリアは憤然として言い返す。


「笑わせてくれるわね。紳士ですって? 野盗風情が、世迷言をほざいているんじゃないわよ!!」

「威勢が良いなあ……。だが、生意気な口は、そろそろ閉じておいた方が良いと思うぞ? そこまで強気に出られるのは、他人からの攻撃を無効にできる加護持ちだからだよな?」

「それがどうかしたの?」

「実は、俺も加護持ちだ。しかもちょっと変わっていて、《他人の加護を無効化できる加護》だったりするんだな、これが」

「…………え?」

 ロベルトの口から、超特大の爆弾発言が放たれる。それと同時に、その場に不気味な沈黙が満ちた。


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