(5)企み

 出発当日、一行は予めダレンが押さえておいた街道の宿場街の宿に宿泊し、二日目も順調に旅程を進めていた。その日は街道沿いの森で野営する予定になっており、一行はまだ日が落ちないうちに予定地に到着する。


「今日は野宿だからな。お前達も、食事や寝床の準備を手伝え。キャリー、マリエラ、お前達は食器を人数分揃える。ジェムズ、ウラル、お前達は天幕を張る手伝い。他は俺と一緒に、毛布や枕の準備をするぞ。薪にする枯れ木を拾ってきてもいいが必ず二人一組で、森の奥には入るなよ!」

「分かった!」

「これだよね!」

「任せて!」

 これまでディロスが抜かりなく、年下の子供達に遊びながら訓練をさせていたらしく、その成果は如実に現れていた。皆、ディロスの指揮の下、自分ができることを率先して笑顔で行っており、スープを作りながら遠目にその様子を眺めていたメリアは、彼の手腕を改めて認める。


(森の中でも子供たちが怖がっていないし、寧ろ楽しんでいるみたいで良かった。ディロスが庭で野営の訓練をしていたと言っていたけど、相当本格的にやったみたいね。アスランさん達の予測では、例の奴らが、早速今日あたり仕掛けてくる可能性があるらしいけど……)

 どうなる事やらとメリアが考え込んでいると、背後から唐突に声をかけられた。


「野営ですと、食事の支度も大変ですよね。手伝いますよ?」

(うわぁ……、早速来やがったわ。しかも露骨過ぎない?)

 猫なで声にも聞こえるその声音に、メリアは内心でうんざりしながらも、当惑した様子を装いながら振り返った。


「え? そんな! れっきとした騎士様に調理を手伝って貰うなんて、申し訳ないです」

「いやいや、そんな遠慮は要らないから。今は俺達、手が空いているし」

「火加減を見ながら、煮詰まったり焦げ付かないようにかき混ぜることくらいできるから」

「一人で鍋を四つ見るのはなかなか大変だろう。鍋は俺達が見ているから、あっちの肉を焼く方を手伝ってきたらどうかな?」

 三人がかりで説得してきた騎士達に、メリアは申し訳なさそうな風情を装いながら確認を入れる。


「本当に、少しだけお任せして宜しいでしょうか?」

「勿論だとも」

「ありがとうございます。それでは少しだけ、こちらの鍋をお願いします。向こうの目途がついたら、すぐに戻ってきますので」

「ああ、大丈夫だ」

「任せておけ」

 そこでメリアは素直にその場を離れ、少し離れた場所で別な作業をしているシーラの所へと向かった。


(私のこと、間抜けな侍女だとか言っているんでしょうね。どっちが間抜けか、思い知ると良いわ)

 メリアが密かにそんな事を考えているなど知る由もない騎士達は、含み笑いをしながら鍋を囲んだ。



「間抜けな侍女だな」

「ああ。だが、加護詐欺野郎には相応しいぞ」

「違いない。じゃあ、さっさと済ませようか」

 そこで一人が手にしていた布袋から、周囲には見えないように瓶を取り出す。それを見た仲間が、素朴な疑問を呈した。


「ところで、それはどれくらいで効果が出るんだ?」

「少しずつ効果が出て、食べてから5~6時間で死ぬらしい。寝ている間にポックリだな」

「それなら大丈夫か。即効性だったら、真っ先に元王子に食べて貰う必要があるからな」

「ところで、四つの鍋のうち、俺達が食べる分の一つだけは入れるなよ? そしてそれがどれか、分かるようにしておけ」

「当たり前だ。お前は俺を、そこまで馬鹿だと思ってるのか」

 毒を手にしていた騎士は、気分を害したように言い返した。しかし周囲から、再度確認が入る。


「それから、入れる分量は大丈夫だろうな?」

「ちゃんと渡された時に、説明を聞いている。この程度の鍋だったら、この瓶1本分で大丈夫だ」

「何本持たされたんだ?」

「5本だ。念のため多めに、三つの鍋に均一に5本分入れておく」

「それが良いな。念には念を入れよう」

「入れる所を見られないよう、周りに注意してくれ」

「ああ、分かっている。あの侍女が戻って来る前に、さっさと入れろ」

 他の仲間達が、周囲からの視線を遮るように自らの身体で鍋を隠した。その間に毒を預かってきた騎士は、三つの鍋にほぼ均等に毒を入れ終える。仕上げとばかりに、手分けして鍋の中身をほどよくかき混ぜていると、一仕事終えたメリアが戻って来た。


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