晴時々ぼんやり

有明 榮

2022年8月

 自分の顎と口周り、加えて頬には髭が生えている。そしてそれは濃さの程度の違いこそあれ大抵の男性には生えているものである。出張先のホテルで机の前の壁に鏡があったのでこの有象無象を改めてまじまじと眺めてみたのだが、それがどうにも不思議な感じがする。そこにいるのが本来であるはずなのにどうにも不潔な印象しか及ぼさないのだ。毛髪、眉毛、睫毛、腕毛などはそれなりの量があったところで、はい不潔ですね総じてそり落とせッとはなるまい(毛髪は特に野球部とか剣道部とかでもない限り)。翻って髭はどうだ。小さな春の芽生え程度の長さしか地表に姿を現していないにも関わらず、どことなく不精な印象を与えてしまうではないか。さらに気に食わないのは、それを耐え忍んで一定の長さと勢力範囲を確保した髭は「立派な髭」というダンディズムのシンボルとして生存圏を保証されるのである。人間の体表という大自然においてこれほど両極端ないきものはなかろう。

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