ダイアローグ短編集
大入道雲
嫌々聖女と頑張り勇者
1年前。ホリン聖王国から、勇者と聖女が出立した。
要所を守る、四天王を撃破しながら魔王城を目指す二人は、解放した街の宿屋へ泊まる事になった。
薄明かりの部屋の中で、聖女がいつになく真剣な顔で勇者を見つめる。
「勇者様。魔王を倒すの諦めませんか?」
「は?・・・え?な、なんで急にそんな事を」
「だって、割に合わないです、死んだらお金も名誉も無意味ですよ!」
「いや、そうは言っても世界中の人が魔王のせいで苦しんでるから・・・」
「勇者様!」
教科書通りの言葉に聖女が勢いよく詰め寄る。
「勇者様が死ぬ時は、多分私も死にます!か弱いですから」
「まぁ、そうだね。普通の人よりはだいぶ強いけど」
「そんな補足は不要です!」
我慢ならないといった様子で続ける。
「さっき勇者様が言った、世界中の人々が困ってると言うセリフ!あれはつまり一年間も寝食を共にした私の命より世界中の赤の他人達の命を優先したと言うことですよ!」
「いや、そう言われても・・・」
「そう言われても──なんです!勇者様にとって、私はその程度の存在なんですか!」
「・・・魔王を倒さないで世界が滅んだら結局死んじゃうよ?」
「けど、魔王討伐の際に死ぬよりは長生きできます」
「・・・それは失敗した時だよ。魔王を倒せたら諦めた場合より長く生きられるでしょ?」
「ムムム、じゃあ、順番に起こりうるパターンを並べますよ?」
「まぁ・・・うん」
聖女が、人差し指をピンと立てる。
「まず、魔王討伐に成功するパターン。これが一番長生きします」
「そうだね」
「そして二つ目」
続けて中指を立てる。
「魔王討伐に失敗するパターン。これが最悪です。私たちは一番早く死ぬし、世界も滅びます」
「三つ目、魔王討伐を諦めるパターン。世界は滅びますが、ある程度長生きできます」
「うーん・・・」
思わず唸る勇者を横目に、補足していく。
「これらに加えて、諦めるが別の人が倒すパターン、勇者は死ぬが私だけ生き残るパターンなどもありますけれど、実現性を考慮して今は無視します」
「そうだね」
「この3つの中で、私たちの選択で確実に実現できるパターンはなんですか?」
「失敗と諦めるパターン・・・」
「なので、私は確実にある程度長生きできる選択をしたいです」
聖女は、言い切ったとばかりに腰を下ろした。
勇者が手を挙げる。
「一ついいかな?」
「どうぞ」
「君は、魔王を倒せるパターンを不確定であることを理由に無視して語っていた」
「む・・・」
「もちろん、魔王が倒せるかどうか。実際のところは誰も分からない」
「けど、ある程度の目星をつける事はできる」
勇者が視線を彷徨わせる。
「まず、僕たちは四天王の内二人を倒している」
「二人の実力に大差はなかった。多分他の二人もある程度まとまった実力を持っていると予想できる」
「そうですかぁ・・・?」
勇者は聖女を見たが、具体的な根拠のない茶々だと理解して続ける。
「現在、四天王の力と人類の力はある程度の均衡を保っている。だから、僕が単独で攻め込めているわけだしね」
「・・・それはそうです」
「魔王が今回の戦争に本気で臨んでいる事を前提で考えるけれど、だとすると、多く見積もって四天王全員と同等程度の力だと推測できる。それ以上であれば本人が参戦して、さっさと戦争を終結させていない理由が分からない」
「えぇー、ほんとですかぁ〜?例えば、戦闘に出向くなんてプライドが許さないってタイプの魔王かもしれないです。待ち構えて滅茶苦茶強いみたいな?」
聖女が、今まで見た中で最も俗っぽい態度で反論した。
勇者は正直驚いていたが、努めて冷静に言葉を返す。
「それを言ったら、魔王は強さで選ばれるのではなく人みたいに血統で選ばれるかもしれないよね。そうしたら弱い事だって考えられてしまうよ。今は、一応の目算を出そうって話」
「・・・言いたい事はありますが、続けてください」
「と言っても、もう話は終わりだよ。四天王四人程度の実力なら十中八九倒せる」
「それはそうですね・・・。・・・では、言わせていただきますけれど!」
「うん。何かな」
「ちょっとの確率でも、戦闘で死ぬ可能性があるなら、それを選ぶのはすごく怖いです!」
「タリア・・・」
勇者は、思わず名前を零した。
「でも、そうは言っても私は聖女として育てられました。正直言ってそれ以外の生き方は、勇者様との道中で見てきたものくらいしか知りません」
「うん」
「だから、勇者様が選んでください。言葉にして、選択してください」
「・・・」
「私の勇者様。私の・・・タリアの命より民の命の方が大切ですか?」
「・・・タリアの命は大切だよ。何かと比べて捨てるなんて事は絶対にしない」
「だったら!」
「けど、民の命を捨てるなんてこともできない」
「ですから・・・!どっちか選んでくださいって!明日死ぬかもしれないんですよ?」
「魔王討伐は諦めない」
「っ──!」
「けど、僕は絶対に死なない。だからタリアも死なせない。絶対に。それじゃダメ?」
タリアは、勇者の目線から逃げるように顔を伏せて呟くように口を開いた。
「・・・かっこよかったので、魔王討伐には付き合います」
「・・・そ、そっか」
かっこよかったから!?
どういう理屈なんだ・・・。それは。
「ですけど!それはそれとして、選んでください」
「え?」
「仮に、民の命と私の命。どちらかを選ばなければいけない時、どっちを選びますか?」
「だから・・・」
「どっちか!!」
「うん・・・・・・・・・・・・た──」
「タリアが一番大切。って言って欲しいんです!気づいてくださいよ!バカ!言葉だけじゃないですか!」
「え、えぇ・・・」
「もう寝ます!疲れているので!」
これが・・・女心・・・・・・?
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