理想のエンディング
名瀬きわの
loop 0: 続きから
「ねぇ、どうしたの?」
優しい声が聞こえる。何度も聞いた声。
大好きな声で起こされるなんて幸せ…
「て、ちょっと待って!どういうこと!!」
びっくりして目を覚ました。いつも寝起きが悪いのに、あまりにも驚きすぎてすぐに目が覚めた。
一瞬夢じゃないかと思ったけど、感覚が「これは夢ではない」ということをはっきりと感じさせた。
「どうしたの?そんなに驚いてー」
そうクスクス笑う青年カネミが眩しい。それもそのはず、この男は私が愛してやまない乙女ゲーム【
故に彼のことならなんでもわかる。何度もプレイしたから。というか1番難しかったのだ。
それは、このキャラクターは1番バッドエンドが多いから。一回選択ミスすると中途バッドエンド、好感度が足りないと中途バッドエンド、隠しパラメータの振り方を失敗するとメリーバッドエンドと、ハッピーエンドまでたどり着くのにとにかく難しい。
そんなこんなあり1番愛着があるのだけれど、それはあくまで彼が二次元だからであり、こんな青年が現実にいたらと思うとゾッとした。理由は…
「ねぇ、なんでボッーとしてるの?もしかして…」
「俺以外の誰かのこと考えてた?」
私の背筋は一気に凍る。この表情、何度も見たことがある。選択ミスると、さっきまでの笑顔は何処にという感じで、急に雲行きの怪しい表情をするのだ。この表情を浮かべた時の結末を、私は大体予想できた。
「そんなことないよ。朝からカネミが見られて嬉しくて…」
私はなんとか笑った。なんとしても回避しなければならない。彼の好感度を下げてはならない。
彼の好感度を下げる、すなわち中途エンドはほとんどバッドエンド。しかも「大体死ぬ」のだ。
「そっかそっか、良かった。君が俺以外の人のこと考えてなくて!」
彼が笑顔に戻る。ひとまず回避したみたい。
「でも、なんで朝なんて誤魔化したの?今、夜だよね?」
血の気が引いた。早速地雷を踏んでしまった。あたりはカーテンで隠れてて、外の様子はわからない。ただ隙間から漏れる光が日光だと思ってしまった。
「夜なのに朝なんて返すのおかしいよね?なんでそんな嘘ついたの?」
彼はどんどん狂気じみた表情で近づいてくる。
私はなんとか理由を探そうとしたけど「寝ぼけてた」くらいしか思いつかず、素直に伝えた。
そしたら「なんだ。びっくりした。」と笑いながら、私から離れた。
これで回避した?
「よし!そんな寝ぼけている君に、俺から特別にプレゼント!」
彼は私にキスをした。
推しとキスなんて、なんと幸福な瞬間だろう。
何度も妄想したことが、まさか現実?になるなんて(変態か)。
そう喜んだのも束の間、彼が口移しで何かを飲み込ませた。突然のことだったので、思わずゴクリと飲み込む。
飲み込んだ後に「これ、やばい」と気づいたけど、時すでに遅し。
目の前がぐわんぐわんと揺れ、彼の姿が朧げになる。
「君はひとつ嘘をついた。寝ぼけていたなんて嘘だ。だって君と僕はさっきまで…」
彼の言葉を最後まで聞くことはできなかった。
私は眠気とは違う不思議な感覚に包まれながら、何もできずに瞳を閉じた。
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