loop 1: 模倣せよ
私は死んだ。
間違いなく死んだ。
だって、この結末を知っているから。
そう、カネミの中途バッドエンドのひとつ
【ED12 : 永遠の眠り姫】である。
私は生まれて初めての【死】を体感した。
不思議と苦しみはなく、瞼が落ちていく感覚。
どうか、このまま現実に帰れますように。
現実と今の自分って、繋がってるのかな?
私が死んだら、現実の私もゲームオーバーなのかな?
そんなこと考えてもしょうがない。
私は死んだのだ。
目を覚ます。当たりは先ほどと同じ風景。
そして彼がいた。
「ねぇ、どうしたの?」
どうやらまた同じところに戻ってきてしまったみたい。セーブデータからやり直し?って感じがする。
とりあえず状況を整理する。
さっきは突然のことで何も分かってなかったけど、よく考えてみると、これって彼のイベントだ。
足を怪我したヒロインを、部屋に連れて行って手当てしてくれるというもの。それに気づくと、確かに捻った(であろう)足がじんと痛いことに気づいた。
そして、ここで言わなければいけない台詞。
それは…
「いや、カネミさんって手当て上手だなと思ったの。私、こんなに綺麗に包帯巻けないもん。」
すると彼は嬉しそうに「そんなことないよ。でも嬉しいな。」と言った。
これでこのイベントは問題なく進みそう。
正直彼にときめく余裕はない。だって死にたくないもん。よく考えて行動しないと!
(せっかくの推しとの出会いなら、もっと幸せな感じだったら良かったのにー。
それからしばらくは、彼のバッドエンド発生イベントはなかった。
というのも今は、確か第二章(個別ルート含めると第六章くらいある)で、攻略対象の分岐前なのだ。
だから、必ず彼といなきゃいけないわけではないし、他のメンバーにも会うことができた。
その中でも私をよくしてくれたのは、ナルという青年。俗に言う良い奴で、攻略対象の中では比較的温厚キャラ。故に、何となく刺激が足りないから、ゲームしていた時はあまり魅力を感じなかった。
でも自分がこんな状況になって、初めて常識人に感謝だよね!って思う(ただ、推しの乗換はしません!)。
確実にカネミルートに行くために、私は普段の会話を気をつけた。個別のイベントではなく、共通イベントも、彼の好感度が上がるものを選択(この場合、私が言うってわけだけど)した。
直接パラメータは見えないけど、何度もやった私の直感的には、これで確実に第三章から彼のルートになりそうだ。
彼のイベントもこなしているし、このゲーム独自の隠しパラメータも順調そう。
そして、運命の日が来た。
第二章の終わり。ここできちんとイベント回収と、好感度、隠しパラメータを網羅していれば彼のルートに入ることができる。
この扉を開けた先に、彼がいれば成功だ。
扉を開く。
「やぁ、待ってたよ。」
カネミがいる!思わずガッツポーズをしそうになったのを抑える。
今はこの世界のヒロインなのだから、下手に動かない方がいい。とにかくヒロインの
こうして無事3章の幕が開けた。
それ以降も記憶を頼りに、彼のイベントを攻略した。
画面越しで知っていたはずの、彼の正体や世界の真相に一緒にドキドキし、驚いた。
実際に体験するって、全然違うんだなと改めて感じた。
そして、最終イベント。
真相を知った彼が、根源を破壊しにいくシーン。
ここでの選択は
①カネミを追いかける
②その場で待つ
であり、この場合①を選べば良い。
良いのだが…
「お姉ちゃん、いっちゃうの?」
このゲームの癒しキャラ「ミント」くんが犠牲になってしまうのだ。ここでカネミを追えば、ミントくんはここに置き去りになり、世界諸共破壊されてしまう。
(元はと言えば、この子が元凶なのだが、彼には彼なりの理由があって…という話は全員を攻略した後のトゥルーエンドでわかるんだけど)
今までこのシナリオ通りに進んできた。そしてこのルートではそれが正解。ミントくんが死ぬことが正解。
でも彼の事情を知っている私には、彼を見殺しにはできない。
画面越しなら、容赦なく選べたけど、実際に目の前に彼が存在して、彼が死ぬところを見たくなかった。
ならやることは一つ。
どちらも救えば良いんだよ!
そう思って、私はミントくんを抱えてカネミの後を追った。
その先で、カネミは根源である【モルドナーラ】という装置を破壊していた。
「来てくれたの?」
彼の震える声が聞こえた。それもそのはず、この装置を破壊することは、破壊したものに破滅をもたらすといわれているのだ。
ただ私が来たこと、そして真実の愛の前では、その破滅は逃げていくらしい(これは別ルートで明かされる内容なので、カネミは知らない)。
「俺、死んじゃうのかな?」
まぁ私はあなたに殺されましたけど!
「そんなことさせないよ。」
私は抱き抱えていたミントくんをおろして、彼の手を握った。
「もし、破滅が起きたとしても、私も一緒だから」
この後は光に包まれて、二人とも【モルドナーラ】から飛ばされる。
やっと、終わった。
「ねぇ、なんでそいつがいるの?」
彼の目は曇った。
ダメだった。やはりミントくんを連れてのエンドは迎えられないのだ。
「まぁいいや。破滅を一緒に受けよう?」
彼は私の腕を強く握った。爪が食い込んで、血が流れる。
そのままこの神殿は崩れ落ちて、私たちは下敷きになった。
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