思い出の時間

雪桜

思い出の時間

「久しぶり~」

今、この場ではこの言葉があちらこちらでたくさん飛び交っている。

なぜなら、ここは旭野中学校の同窓会が開かれており、各々が約三年ぶりに顔を合わせている。それぞれが高校・大学に進学、また企業に就職などでバラバラになり、仲の良い者は定期的にあっているかもしれないが、一同がこうして顔を合わせるのは本当に久しぶりで皆が皆懐かしんでいるのだ。

「よっ!レイ君久しぶり!」

「おぉ!久しぶりだなぁミキ!」

「レイ君とは何年ぶりだっけ?」

「ん~、三年とかか?結構久しぶりな気がするな。」

「そうだよねぇ~。あ、そうそう。あっちにヒナもいるよ。呼んでこようか?」

ヒナとは中学の頃ミキと一緒によく遊んでた。お互い友人として接していたが、俺はその頃ひそかに恋心を抱いていて、ミキにはいつの間にかバレていたのだ。しかし、高校に上がると同時に、連絡はときどきするものの、以前のように皆で遊ぶ機会はなくなってしまった。

「いいよ。わざわざ呼ぶこともないよ。」

「そんなこと言わずにさ。そこで待ってなって。」

「お、おい!いいって…」

ミキのやつめ、余計なことを。絶対面白がってるんだろ。

「ほら、ヒナ。レイ君。あんまり変わってないっしょ。」

「久しぶりだな。ヒナ。」

「…うん。久しぶり。レイ君。」

「ヒナは就職だっけ?私とレイ君は今大学生だもんね。」

「うん。今公務員してるよ。」

俺は中学卒業後は、市内の進学校に進学し、県内の商業系の大学に入学。ミキは商業系の高校に進学し、その後は都内の私立大学。ヒナは、ミキと同じ高校に進学した後、県内の役場に就職した。

「そっかぁ~。ねね、ヒナはもう彼氏できたの?」

「えっ⁉彼氏⁉」

「おい、聞くにしてもいきなりすぎるだろ。」

「いいでしょ、別に。片思い君は黙ってて下さ~い。」

「このっ…。」

「知ってるヒナぁ~。レイ君ね。昔ヒナのことずっと好きだったんだよ。」

「…え?レイ君が?」

「そうそう。で、それでヒナは彼氏いるの?どうなの?」

「え…っと…うん。いる。」

「うそ!ヒナ彼氏いるんだ!おめでとう!じゃあ、これで片思い君は失恋君になったわけだ。」

「ほっとけって。俺だってもう彼女がいるんだからもう昔の話だよ。」

「嘘⁉レイ君彼女いるの⁉聞かせて聞かせて!」

「ヤダよ。絶対しつこいもん。」

「いいじゃん。ちょっとぐらい聞かせてよ。」

「ヤダって。それに、俺そろそろ帰らなきゃだから。」

「えっ?もう帰るの?まだまだこれからじゃん!」

「帰ってやることがあるんだよ。洗濯物とかいろいろな。」

「今日ぐらいいいんじゃないかな?せっかくみんな集まってるんだし。」

「ほら~、ヒナもこう言ってるし。もう少しだけいようよ~。」

「後回しにしたらたまっちゃうだろ。それにほかにも準備とかもあるしな。」

「ねぇ、レイ君って一人暮らしなの?」

「…まぁ、一人暮らし…というかルームシェア?」

「へぇ~そうなんだ。あ、もしかして彼女とだったり?」

「…さぁな。それじゃあもう帰るから。また今度飯でも食いに行こうぜ。」

「そっか。しょうがない。じゃあまたねレイ君。」

「おぅ。ヒナもまたな。」

「うん、またねレイ君。」


・・・


「ただいま~って、いるわけないか。」

正直に言えばさすがに気まずかったな。同窓会へは気が向いたから足を運んだだけで、まさか過去のことをいろいろと暴露されることになるとは。後々面倒なことになるのは確実だし、過去は思い出したくないことがたくさんあって、本当はあまり関わりたくなかった。過去は過去として残して、今だけを見ていたかったがこれからはそうもいかなそうだ。

「さて、洗濯物も片付けも終わったし、あとは軽いもんでも作っといてやるか。さすがにもう社会人だし、泥酔で帰宅ってことはないだろ。」

十五歳という思春期真っただ中の俺は、自分の中の思いを相手のためと決め込んでしまいこんでいた。相手の気持ちも確認せず、ただ自分の中で妄想だけ膨らまして後悔だけが後に残った。でも、今はそれでもよかったと思える。今があるのは過去があったおかげだから。過去の思い出がいい者だっとは言えないけれど、今を作り上げてくれた過去には感謝している。だから過去にはあまり触れず今を大切にしていきたい。けれど今日はそうもいかないだろう。きっと彼女はそんな俺を許さないだろう。おそらく帰ってきた彼女はこういうだろう。それは…


「ただいま~。レイ君の話いっぱい聞いてきたよ~。私、中学生の頃にレイ君が私のこと好きだったって聞いてないんだけど~!ちゃんと聞かせてね!」

「はいはい。とりあえずシャワー浴びてきな。そうしたら二人で飲もう。話はその時にするから。な、ヒナ。」

「は~い。おつまみは?」

「ちゃんと作っておいたから。早く行っておいで。」

「わ~い。レイ君大好き!」

「はいはい。俺もだよ。」

こうやって触れたくない話をこれからたくさん聞かれるのだろう。でも今日は過去を振り返るのは一人じゃない。彼女と二人でなら少しはいい話になるのかな?


「ふへ~。さっぱりした~。」

「ヒナって外だとめっちゃおとなしいのに、家の中だと少しおっさんになるよな。」

「えぇ~。おっさんってなんかかわいくな~い。むぅ~。」

「あと、付き合ってるのバレたくないとはいえ、少し警戒しすぎじゃないか?おとなしすぎて逆に不自然だった気がするぞ?」

「えぇ⁉そんなに⁉まだみんなにばれるのは恥ずかしぃ~よぉ~…」

「…まぁ、俺にだけ見せてくれる素の姿って結構うれしいけどね。それにだらけてるヒナも可愛いしね。」

「⁉。やった~。レイ君いつもありがとね。私、家事全般苦手だから任せっきりで。今日も早く帰らせちゃったし。」

「全然気にすることないよ。好きでやってるんだから。それにいつもヒナは一生懸命お仕事してるんだし、それに今日のだって、正直言い口実ができて助かったよ。」

「そう?ならいいんだけど。私もレイ君のご飯好きだし、もう、レイ君なしは考えらんない!」

「そっか。俺もヒナと一緒にいるのは楽しいから好きだよ。」

「これからもずっとそばにいてね。」

「うん。ちゃんと傍にいるよ。」

それでね、レイ君。今日同窓会でね…



昔は近くてもすれ違ってばかりで、お互いのことは知っているようで全く知り得なかった。

けど、今はずっと近くにいる。

だからゆっくりとお互いのことを知れる。

一歩ずつ、また、すれ違わないように。

今夜は二人で空白の年月をすり合わせていく。

あぁ、やっぱり今夜は長そうだ。



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思い出の時間 雪桜 @YUKISAKURA0923

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